その男の動作はひどく優しくて、重なった柔らかい唇や、肩に添えられた手のひらの温かさを感じながら、時にはそのまま死んでしまいたいと思うほどだった。
けれど、その男に甘えれば甘えるほどに、そのぬるま湯のような心地よさを否定したがる自分が顔を出す。
そんな醜い葛藤ごと包み込んでくれなんて言わない。
ただ、今まで通りに接してくれればそれで――……。
「どうしたんだ? 不動。今日はやけに大人しいな」
そう言ってヤツは笑った。
その笑みだって例に漏れず優しく温かいもので、向けられるとつい目を逸らしたくなる。
「何かあったのか?」
「別になんもねぇよ」
「うん。そうか」
ヤツが手を差し伸べてきた。
どうしろと言うんだ。そういう疑問を持ってヤツの目を見ると、ヤツは「手、出せよ」と要求してきた。
迷うんだ。そういう時、おれは。どうしていいか、分からなくなる。
どうしようもないくらいに胸が痛む。このままコイツに溺れてもいいのだろうか。その時、おれは、コイツは、弱いおれを許してくれるのだろうか。
「変なこと考えるなよ」
言いながら半ば無理矢理手を引っ張られた。
おれの左手と、ヤツの右手のひらが重なって、指が絡められる。
「疑ったり、悩んだりなんてするな。無駄なことに頭を使ったって疲れるだけだろ」
そう言ってヤツはまた笑った。
おれの中に浮かぶ不安を全部掬いとってしまう。
そんなお前に溺れるのが怖い。なのに。
肩に添えられた手のひらの熱を感じていると、全てどうでもいいと思えてくるから不思議だ。
end
久々に風不を書いた。風丸難しいです。
2011/08/02 23:26
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