これの続き












「ふさがってる」
 何のことかと思った。前触れが無かったから。
 振り向くと源田がこっちを指さしていた。正確には、おれの耳。
 あぁ、なるほどな。
「まぁ、そりゃ、塞がりもすんだろ。もう2ヶ月は経つからなぁ」
「そうなのか」
「ん、開けたこと無い?」
「無いな」
 源田は興味深そうにピアスのあった場所を見ている。人間の治癒能力はすごいなぁ、なんて、爺さんかお前は。
「源田も、開けてみる?」
 冗談めかして聞いてみると、源田が慌てたように首を振った。
「いや、いい。そういうのは……」
「じゃ、一緒に開ける?」
 相談を変えると、源田が二、三度まばたきした、別にそんなに驚くことじゃないだろ。
 一体何を考えてるんだか。源田はしばらく黙っていたが、やがて、下げていた顔をパッと上げた。なんか、決意したみたいな顔。
「不動が開けたいなら、……まぁ、少しだけ、なら、」
 源田の視線がふらふら泳ぐ。
 どんどん語尾が弱くなっていくのが面白くて、思わず吹き出すと、源田が困ったように眉尻を下げた。
「ハハ、ムリすんなよ。怖ぇの?」
 源田は何も言わなかった。図星かよ。
「あ〜、源田といると面白い」
 源田の胸元に倒れ込むと、突然のことに慌てた源田と、二人してソファに沈んだ。しっかりしろよキーパー。てかこの体制、押し倒してるみてぇだな。
「ふっ不動……!?」
「そんな慌てんなよ」
 源田の胸に耳をあてると、心臓の音が聞こえてきた。
 源田は、どちらかと言えば体温が高いのかもしれない。密着すると、すげぇ落ち着く。あったけぇからかな。
「…2ヶ月」
 唐突に源田が口を開いた。
 見ると源田は、ぼんやりと天井を眺めている。
「この2ヶ月。不動にとって、どんな2ヶ月だった?」
 『この2ヶ月』って言うのは、紛れもないこの60日間のことで。60日前に何があったかなんて、お互いよく理解してるわけで――…。
 なんて答えるべきか思案した挙げ句、結局小さい声で「お前は?」と切り返すことしかできなかった。
「おれか?」
 源田が天井に向けていた視線をこっちに移した。何故だかその目が怖くて、思わず目を逸らす。怒ってるとか、不機嫌そうとか、そういうんじゃなくて、いつもと何もかわらない、真っ直ぐなその瞳が怖かった。
「そうだなぁ。おれは……、静かだと思ったな」
「静か?」
「あぁ。深い湖の底に沈んでるような静けさを感じたよ」
「………意味わかんね」
 それって寂しいってことじゃねぇの。やっぱり源田はアイツといた方が幸せだったのかも知れない。アイツがそれを望んでいないとしても。
 おれが、源田の幸せを奪った?
「不動は?」
 そしてまた同じ質問をされてしまった。
 答えたくないっていうのが今の本当の気持ちな訳だけど、源田だって言ったんだし、逃げちゃいけないような気がした。だから、いつもみたいに適当な言葉ではぐらかさないで、たとえその傷がまだ痛んでいたとしても、向き合おうと思えた。
 おれにとって、どんな2ヶ月間だったんだろう。
 最初で最後だと思ってたヤツと別れて、似たような境遇のヤツの家に転がり込んで、だらだらただ生きて。
 全然楽しくなかった訳じゃない。源田は優しいし、一緒にいて落ち着く。だけど、鮮やかに見えていた世界が、モノクロになってしまった。色が死んでしまったんだ。
「………時が止まったまま生きた2ヶ月間だった」
 きっとこれからも、何かが欠けたまま生きていく。




end












ひええ……! 続きを読みたいって言って下さった方、遅くなってすみません(泣)
嬉しかったので、無い予定だった続きを頑張っちゃいました!
わたしピアス詳しくないので調べたら書き直すかもしれません(汗)



2011/08/01 00:44
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