不動が自室のドアを開けたとき、部屋は明るかった。
 ベッドの上では1人の少年が仰向けに寝転がったまま、不動を振り返ることなくじっと天井を見つめている。
 それに驚いたふうもみせず、不動はドアを締めながら、ため息混じりに言った。
「お前また嘘ついたろ」
 その少年は――、円堂は、何も答えなかった。
 不動はそれを気にする訳でもなく、静かにベッドに腰を下ろす。
 部屋は静かだった。それは気まずい沈黙ではない。ぬるま湯に浸かっているような、心地よい沈黙だ。
「さっきさ」
 その沈黙を破ったのは不動だった。
「豪炎寺に言われたよ。『お前、円堂と一緒にいるんじゃなかったのか』ってよ」
 不動は、円堂を見下ろした。
「おれはお前といるなんて言ってねぇし、聞いてねぇんだけど?」
 天井を見上げたままだった円堂が、チラリと不動を見た。そして、再び天井に視線を戻しながら、ぽつりと呟いた。
「……おれが言った」
「そりゃあそうだろ。他に誰が言うんだよ」
 円堂は返事もせずに、ごろりと寝返りを打って、不動に背中を向けた。
 不動はその髪に手を伸ばす。さらり、と、髪が指をすり抜けていく。
「お前、ここ最近嘘つきすぎ。後で繕うおれの身にもなりやがれ。めんどくせぇんだよ」
「だって」
「あ?」
 円堂が肩越しに振り向く。いつもみんなを支える太陽のような笑顔は、そこにない。ただただ大きな瞳が冷たく光るだけ。
「おれが嘘ついて逃げれば、不動が追っかけてくるじゃん」
「悪ィかよ」
「違うそうじゃない」
 嬉しいんだ、と円堂がいう。
 相変わらず読めない表情を顔に貼り付けながら、円堂は腕を伸ばして不動の頬に触れた。
 所々豆が潰れて硬くなった、ゴールキーパーの力強い手のひらだ。
「なんで嬉しいんだよ」
「お前が好きだから」
「嘘つき」
 円堂がかすかに眉根を寄せる。これは嘘じゃないと言い張る彼は、やはり、少しだけ幼く見えた。
「嘘つきの言うことは信じねぇよ」
「嘘つきだけど信じろよ」
「いやだね」
「おれは、信じてるよ」
「いらねぇそんな信頼」
「不動のバカ。キライ」
「今の嘘? ホント?」
 不動が問うと、円堂がパチパチとまばたきを繰り返した。そして、意地悪そうにニヤリと笑う。
「ホント」
「この嘘つきめ」
 不動がつられて笑う。どちらが嘘つきなのか、わかったもんじゃない。




end












まさか初めての円堂さんがこんなマイナーカプだなんてね。



2011/07/10 00:17
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