2人とも若干病み












 このおれが、誰かと馴れあうなんて、ましてや誰かに依存するだなんて、あの頃のおれに言ったら鼻で笑われちまう。
 あの頃のおれと、今のおれ。どちらが正しいのかなんて誰にも判断できない。
「不動…不動…、」
 鬼道クンの手がベッドの上を迷いながら、おれの手のひらに重なった。
「……なに」
 答えの代わりに手を強く握られた。
 おれもそれを握り返す。
 鬼道クンの手は少し湿っぽかった。
「…不動」
「……どしたの」
 鬼道クンがもう片方の手で自分の顔を拭った。泣いてるように見えたのは、鬼道クンの声がいつもより掠れてて小さいからだ。
「おれを、殺してくれ、」
 鬼道クンが苦しげに、呟くように言った。おれに。
 改めて、ベッドに腰かけた鬼道クンの顔を見上げた。真っ赤な目が綺麗だ。
「……またそれかよ」
「不動…、すまない」
 鬼道クンがおれに謝る。
「ねぇ、このやりとり何回目だか知ってる?」
「…すまない」
「おれもわかんねぇよ」
 もう数え切れないほどに、鬼道クンはおれに死を乞うた。
「鬼道クンねぇ、」
 おれはその度に、
「殺してあげるから、鬼道クンはおれを愛して」
 意味もなく愛を乞う。
 鬼道クンがこちらを振り返った。
「今だって愛してる。おれにはお前しかいないんだ」
「もっと愛してよ。鬼道クン」
 あぁ、日本語になってない。おれ達の会話。
 鬼道クンは体ごとこちらを向くと、さっき自分の顔を拭った手で、おれの喉元に触れた。
 鬼道クンの指先はするすると、迷うことなくおれの唇に到達して、一度そこを優しく撫でてから、上に、上に、移動していった。
 鬼道クンの指先が、ピタリとおれの目尻にとまる。
 温かな親指が、おれの頬を濡らす涙を払拭した。
「泣くな」
「お前のせいだから」
「…そうか」
 鬼道クンが顔を歪めた。
 あぁ、そんな顔しないで。鬼道クンの流す涙も、おれが代わりに全部全部流すから。だから――――だなんて言わないで。
 そんな思いを込めて、おれは鬼道クンを抱きしめた。
 こんなに鬼道クンに依存してるとこ、あの頃のおれに見せたら卒倒されるかもしれない。
 かわまないと思う。
 何が正しくて何がいけないのか、もうおれには、おれ達にはわからないから。
「鬼道クン」
「うん」
「おれがしわだらけのジジィになっても、まだ愛しててくれるのなら、その時に殺してあげるよ」
「…そうか」
「だから、その時になったら、おれと一緒に死のう」
 無期限的な、曖昧な約束。
 頷いてくれる鬼道クン。
 例え世界が変わっていこうとも、おれは死ぬ瞬間まで鬼道クンに依存していそうだ。



end












鬼道side書きたくなった



2011/05/30 20:56
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