今更だけども












花を買った。おれはあまり花の種類は知らないけど、綺麗な、良い匂いのする花だ。その黄色い花と、鮮やかな赤い花と、白い小さな花とを、あわせて花束にしてもらった。綺麗でしょう。あなたに似合いますよ。あなたのいる場所には不似合いでも、あなたには似合いますよ、きっと。
「どうした、フィディオ?」
「……今行く」
今日の空がやけに青いのは、今日があなたのいなくなってしまった日だからですか?これだけ澄んだ青の下でなら、あなたを捜し出すことも容易かったのに。





一年前の今日。彼はこの世を去ったらしい。らしい、というのは、これが人伝に聞いた話だから。彼は、おれ達に一炊の夢を見せてくれた。彼がおれ達に見せた夢が、全て幸せだったわけじゃないけれど。でも、彼の死に、みんな、少しでも胸が痛んだはずだ。
「デモーニオ!パスだ!」
「あぁ!」
彼が追い続けられなかったものを、追いかけていきたいと、あの日おれは、彼の虚像にそっと誓った。





知らないうちに、鼻歌を歌っていた。なんだっけ、この曲。悲しくて、優しくて、温かい歌。途中で止めてしまうのもなんだし、記憶が許す限り歌い続けたい。
「お、珍しいな、お前が歌ってるなんて」
「あ。晴矢、風介。これなんて曲かしってるかい?」
「は?君が歌ってる歌を僕たちが知るわけないだろう」
「そうだね、ごめん」
ふと思い当たって、カレンダーを見ると、今日は彼の命日だった。すると、今の歌は、無意識の内に送っていた、彼への追悼の歌なのかも知れない。この歌は、そう、かれにぴったりな歌だったから。じゃあ、今度は心からあなたに歌おう。この青い空の彼方にいるあなたにむけて。




「ほらよ」
河原に咲いてた小さな花に、白い紙を巻いただけの、ダッセェ花束だけど、来てやっただけでもありがたく思いやがれ。元々来る気は無かったんだからな。さっきまで誰かいたのか、黄色とか、赤とか、場違いな程に鮮やかな花が飾られてる。あと、まだ消えていない線香が数本。
「思われてんねぇ」
おれの小せぇ花束を、鮮やかな花々の脇にすっとさす。ま、ねぇよりはマシだろ?
「せいぜいあの世じゃ、大人しく暮らせよ。あぁ…、あと、さっきアイツとすれ違ったぜ」
じゃあな。お前は幸せ者だよ。死んだ後も、こんなにたくさんのヤツに思われて。





ザリリと、足下の小石が音をたてるほか、周囲に音はありません。あなたはこんなにも静かな場所に眠っているのですね。日が昇り、静かに南中し、烏とともに夕闇が訪れ、やがて夜が訪れる場所に。あなたが眠る石に手を当てても、温もりも鼓動も感じることができない。あぁ、まだあなたが生きていたなら…。総帥、生きてさえいれば、あなたの力で誰かを幸せにすることもできたかもしれないのに。
「…亡くなられてもなお、おれはあなたに縛られているようです」
総帥、あなたは幸せだったのでしょうか。最後に自身の過ちに気づけたとして、それで幸せだったのでしょうか。おれはあなたを憎んでいた。しかし、あなたから教わったもののすべてが、おれにとってマイナスであるわけではない。
「おれはあなたに、何かできたでしょうか…」
総帥…。あなたといた日々を忘れない。きっと、死ぬ瞬間まで、おれは忘れない。












過去への追悼



2011/02/14 16:58
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