※若干暗い
※三角関係












「気持ち悪い」
 今日、というか、今さっき、晴矢が風介に思いを告白した。
 晴矢は、小さい時から風介のことが好きで、それでもその思いをひたむきに隠してきた。おれが、告白しちゃえば?って言うと、いつも晴矢は困ったみたいに笑って『男に告られたって気持ち悪いだけだろ』って言っていた。
 それなのに、今日、今さっき、晴矢は風介に告白した。
 何故今日かって言うと、最近、風介は晴矢に優しかったから。それは全部、ただの気まぐれだったんだけどね。ちょっと優しくされただけで走っておれの部屋に報告に来る晴矢にとっては、相当嬉しかったんだろうな。
 今日も今日とて、おれの部屋のベッドに腰掛けて、足をぶらぶらさせている晴矢に、おれは言ってあげた。
「それって、晴矢の思いが届いたんじゃない?告白するなら今しかないよ」
 って。そしたら晴矢、顔真っ赤にしちゃって、でも、とか、無理だ、とか、凄く消極的になっちゃって、可愛いんだけど説得するのに時間かかっちゃった。
 それでもなんとか言いくるめて、ホラ行っといでって背中をぽんと押してやると、ちょっと照れたように笑って、小さい声でありがとうって言ってくれた。
 ごめんね晴矢。風介は君のこと、ちっとも好きなんかじゃないんだよ。
 勢い良く飛び出していった晴矢の後を追って行くと、廊下の向こうに二人の姿が見えた。
 晴矢がばっと頭を下げて、結構大きな声で言った。
「ずっと前からお前のことが好きだった!」
 結果は、まぁ、冒頭のセリフに戻るんだけど。
「気持ち悪い」
 叩かれたように顔を上げた晴矢に対して、風介は冷たい目で彼を見下す。まるで汚いゴミでも見るみたいな目で。あーあ、晴矢かわいそう。
「馬鹿じゃないか?君。わたしは男なんだが」
 頭沸いてるんじゃないか、なんてひどいセリフをぶちまけて、風介はそのまま晴矢のわきを通り抜けた。そして、通りぬけざまに風介が何か言って、晴矢が目を見開いた。
 風介がそこを去ってからたっぷり20秒感。晴矢はピクリとも動かず、ずっと前を見ていた。晴矢がゆっくりとうつむく。自分の手のひらが握ったり閉じたりするのを二、三度見つめた後、晴矢がこっちに向かって歩き出した。
 慌てて頭を引っ込める。まだバレてないみたい。晴矢相当ショックだったんだね、かわいそう。本当にかわいそう。
 でも、悲しんでるとこ悪いけど、おれも一歩進ませてもらうよ。そこにつけこむことでしか、君を振り向かせることが出来ないからね。卑怯だけど。
 だいたい十歩分くらい後ろに下がる。そして、ここだと思ったその瞬間に、いつもとなんら変わらない歩幅で歩き出す。すると。
「うわっ……!…ヒ、ロト?」
「あっ晴矢?」
 計算通り。晴矢とぶつかった。尻餅ついて、本当にびっくりしたみたいにこっちを見上げてる晴矢は、なんだか幼く見えた。
「大丈夫?立てる?」
「あぁ。……あれ?」
 自力で立ち上がろうとするけど、腕に力が入んないみたいで、そのことに驚いたみたいに呆然と座ったままの晴矢。しゃがんで目線をあわせると、訝しげに眉をしかめた。
「………んだよ?」
「なんかあったの?なんだか、苦しそう」
 晴矢がハッと目を見開いた。ごめんね。卑怯なヤツで。
「……なんも、ねぇよ」
「本当?あ、そういえば、風介に言ったの?成功した?」
 無邪気な笑みを貼り付けて、何も知らないと装って。ごめんね、ごめんね。でも、胸が痛まないんだ。
「……るさい」
「え?晴矢?」
「うるせぇっつってんだよ馬鹿ヒロト!!」
 晴矢の声が、廊下中に反響した。誰かにバレたらどうしよう、なんてぼんやり考えてたら、晴矢の小さく震える肩が目に入ってきた。うわぁ、晴矢が泣くとこ初めて見た。今まで、どんな時も強くあり続けた晴矢が、初めておれの前で弱みを見せてくれた。まぁ、見せてくれたと言うよりは、見せざるをえなかったって言った方が正しいよね。
「晴矢…」
 声を押し殺して泣く晴矢を、そっと抱きしめる。驚いて突っぱねようとした晴矢の左手に、そっと自分の右手を絡める。涙で潤んだ目がいっそう大きく開いてた。
「ヒロト?」
「好きだ晴矢」
 晴矢が息を呑んだ気がした。
「晴矢は風介が好き。だけど、おれも君のことが好きだ」
 腕から逃れようと、身を捩る晴矢を、ぎゅっと抱きしめる。逃がしてやらないよ。ずぅっとずっと、このときを待ってたんだから。
「やめろ!ヒロト!!」
「好きだよ。愛してる」
「嫌だ…ッ!離せ!」
 少し体をずらして、晴矢の耳元に口を寄せる。
「晴矢。風介は君を見てなんかいない。そうだろう?おれはもう嫌なんだ。苦しむおまえを見ているのが」
「あ…」
「おれなら、おまえを愛し抜ける。未来永劫、おまえだけを見ていられる。……晴矢、愛してるよ」
 晴矢の目から、一筋の涙が流れ落ちるのが見えた。さぁ、堕ちておいで。
「晴矢……」
 名前を呼ぶと、今までだらんと垂れ下がっていた晴矢の腕が、するすると上がって来た。そして、しがみつくように、おれの背中に回された。
「晴矢…」
「おれ、まだ、風介のことが好きだ」
「うん」
「でも、……風介はきっと、おれを見てはくれない」
「そう…」
 すすんと鼻を啜ったきり、晴矢は黙りこくっちゃった。けど、問題ないよ。続きも聞きたいけど、無駄にせかしたらかわいそうだからね。続きはまたいつか聞かせてよ。
 さっきの、拘束するようなのとは違う、赤ん坊を包み込むような力で抱きしめて、赤い髪を優しく撫でる。また静かに泣き出した晴矢が愛しくて、おかしな優越感に、自然と口角が上がる。あぁ、バカみたい。
 ふと、人の気配を感じて顔を上げると、さっきの告白現場に風介が立っていた。
 彼は、さっき晴矢を見下していたような冷たい目線ではなく、燃え上がるような怒りの色を、その青い瞳に宿していた。そして、その瞳でこちらを―――否、晴矢を睨みつけていた。
 おれにはすぐに分かるよ。晴矢が君を見るような、おれが晴矢を見るような目で、君はおれを見てたんだろう。
 だから晴矢が忌々しくてたまらない。そうだろう?すごく分かるよ。その気持ち。
 だって、おれもそうだったから。
 あぁ、でも、残念。晴矢は堕ちてくるよ。それも自分から。
 気分は最高だ。絶好調だよ。あぁ、おれ達ホントにバカみたい。






end












うまくいかないね



2011/02/08 17:57
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