時空的に超次元




















 勉強会とは名ばかりの久々の逢瀬で、綱海さんは一度も参考書に手をつけずに、左手で頬杖、右手でペン回しをしながら、どうやら終わることなどなさそうな話をしている。
 かく言うおれも、久々に綱海さんに会えたことが嬉しくて嬉しくて、開いたノートはそのままに、綱海さんの話に聞き入っていた。
 今、沖縄の方では桜が満開だとか、最近やたらと雨が降るとか、今度沖縄に連れてってやるとか。楽しそうに話す綱海さんを見てたら、こっちも幸せな気持ちになってきた。
「立向居はどうだ?サッカー楽しくやってっか?」
「はい!もっともっと練習して、おれも円堂さんくらいに上達してみせます!!」
「ははっ、立向居らしいなぁ。頑張れよ!」
 綱海さんの右手が、ペンを置いて、こっちに伸びてきた。何だろうと思っているとガシガシと強めに頭を撫でられた。
「綱海さんっ……!つっ強すぎですっ!」
「だぁいじょうぶ大丈夫!抜いたりしねぇから!」
 そういう問題じゃ…。と呟くと、綱海さんは面白そうに笑った。でもちょっとずつ頭を撫でる力が弱まっていって、最後はポフポフと、まるで小さな子犬でも撫でるような、優しい撫で方に変わっていた。
「綱海さん?」
 ふと顔をあげると、綱海さんと目が合った。何て言っていいのか、飛び立とうとする雛鳥を見つめる親鳥みたいな、優しくて…、そうだ。慈愛に満ちたような顔をしていた。
「……なんだ?」
「あ、……いえ、なんでもありません」
 そんな綱海さんの顔を見ていたら、不意に胸が苦しくなってきた。ツンと鼻の奥が痛くなって、とっさに下を向いた。綱海さんの手は、まだ頭の上に乗ったまま。
「おーい。…たちむかいー。なくなー」
「…泣いて、ません」
 綱海さんが顔をのぞき込んで、困ったみたいに笑った。そんな綱海さんを見て、いよいよおれの涙腺は決壊してしまって、己の膝を抱きながら声を押し殺すのが精一杯だった。あぁ、申し訳ない。久々に会えたっていうのに泣き出して。情けないな、おれ。
 せっかく綱海さんが来てくれて、たくさんお話ししてくれて、なのに、それを台無しにしてしまったのに、綱海さんは文句一つ言わずに、優しく頭を撫でていてくれる。それがたまらなく嬉しいのに、たまらなく悔しくて、いろんな感情に頭が爆発しそうだった。
「綱海さん……、ごめんなさいっ……」
「おいおい、別にお前が悪いわけじゃねぇんだから、謝るなって」
「はい…」
 絶えず頭を撫でていてくれた綱海さんの手が、ふと止まった。
「なぁ。立向居」
「……はい」
「つらいか?」
「え……?」
 一瞬、なんのことだか分からなかった。
「…たまにしか会えない。だから、そのとき相手が何してるか、何処にいるかもわからない。会いたくてもすぐに行けるような距離じゃない。そのうえ、相手は同性。そんな恋…つらいか?」
「綱海さ……」
「立向居はどう思う?」
 真摯な瞳で見つめられて、思わずドキリとした。だけど、気づいた時には、自然と答えが口から出ていた。
「…つらいし、苦しいし、悲しいこともいっぱいあるけど……、でも、もっともっと、ずっとずぅっと、おれは綱海さんが大好きですっ!」
「…そうか」
 そう言って綱海さんは微笑んでくれた。おれの目に溜まっていた涙を、温かい親指でスッと拭うと、また、太陽みたいに笑った。
「ま!おれは会いたくなったらすぐ飛んで来るからな!!」
「……綱海さん、飛行機苦手なんじゃ…」
「あっ……だ、大丈夫だ!お前に会うためなら飛行機なんて…、飛行機なんて……、…飛行機、か…」
 すっかり難しい顔になってしまった綱海さんを見てたら、思わず笑みがこぼれた。これだからこの人は、まぁ、なんてかっこいいのだろう。
「おい、笑うなよ」
「綱海さん!おれも会いたくなったら飛んで行っていいですか?」
 綱海さんは一瞬ぽかんとしていたけど、途端に笑顔に戻って、大きな声で言った。
「おう!いつでも大歓迎だぜ!!じゃあ、おれは泳いで来ようかな」
「泳ぐんですか!?」
 自分は何を不安に思っていたのだろうか。綱海さんはこんなにも優しくて強くて大きな人なのに。綱海さんは絶対におれを裏切ったりはしない。こんなにも温かい素敵な人なのだから。
「…あれ?立向居」
「なんですか?」
「このシャーペン…」
 綱海さんがおれの筆箱から、お気に入りの青いシャープペンを引っ張り出した。
「そのシャープペンがどうしました?」
「いや、これ……」
 綱海さんが、今までずっと頬杖をついていた左手で、自分の筆箱をサッと開ける。そして、中からオレンジ色のシャープペンを一本取り出した。
「あ…、…それ…」
「うん、色違い」
 ニヘッと笑って、その二本をカツンと触れあわせる。
「立向居、これ、ちょっと借りるぞ」
「は、はぁ」
 言うなり綱海さんは、二本のシャープペンのペン先をくるくると回して、手際よく外した。そして、両方のグリップ部分を外すと、青いペンにオレンジの、オレンジのペンに青いグリップを付け替えた。
「ホラ、出来た」
「こ……これって」
「おまじない」
 オレンジのグリップがついた、青いペンを返される。
「おまじない、ですか?」
「ってゆーか、人質?」
「人質…?」
 にひひっと、イタズラ小僧みたいに笑いながら、「このペンがある限りお前はおれから逃げらんねぇぞ」、って言う綱海さんが、暗に心配してくれてるのがわかってしまって、嬉しくて嬉しくて、ちょっぴり気恥ずかしくなった。
「さぁて!遅くなっちまったけど勉強だ勉強!!立向居!!教えてやるからこっち来い!」
「はっはい!」
 青いシャープペンの真ん中のオレンジ色が、太陽みたいだと思った。
 そのシャープペンを使う度に、あなたもおれを思い出してくださいよ、綱海さん。




end












無意識の内にお互いのキーカラーのお揃いシャープペンを買っちゃってる綱立^艸^
シャーペン部分交換ネタは、まさかのおとんの思い出話より抜粋。





2011/02/04 21:05
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