※年齢操作
※死ネタ?
※狂ってる















 5時頃、朝一番に晴矢が部屋に転がり込んできた。
 今にも泣き出しそうな顔して、風介がいないんだ、と、弱々しく呟く。
 初めてこの台詞を耳にした三年前、おれは慌てて二人が住んでいる隣の部屋に行った。その時は確かに風介はいた。いた、という表現はおかしいのかも知れない。そう、そこに確かに風介はあった。息もしない、鼓動も刻まない風介が。
 晴矢には風介が見えてなかった。きっと視界には入っていたんだろうけど、晴矢はソレを認識することができなかったんだ。あれだけ愛し、依存していた相手が、突然この世を去ってしまった。その衝撃の強すぎる事実に、晴矢の頭はついていかなかったらしい。
 おれは、その場では冷静に対応できたものの、その数ヶ月後に、警察みたいな人達に渡された書類には、さすがに冷静に対応できなかった。
「おいヒロト!聞いてるのか!?」
 久々に三年前の出来事を思い出していたら、晴矢に体を揺すられた。
「え…と、ごめん。どうしたって?」
「だからッ!!風介がいないんだよぉ」
 そうだ。晴矢は風介が死んでしまったということを今だに認識していない。そして……、
「昨日までは一緒にいたのに、おれ、風介を怒らせたのかな」
 そして晴矢は、三年前のあの日から自分の時間を止めてしまった。
 確かにおれ達は成長する。三年間で少しだけど容姿も変わった。だけど、晴矢の中では時間は止まったままらしい。
「なぁ、ヒロト、風介どこにいるか知ってるか?」
 そして三年間、晴矢は全く同じセリフを毎朝毎朝繰り返してる。
「晴矢」
「なに?」
「はいコレ。風介の書き置き」
 どこにでもあるようなノートの切れ端を半信半疑に受け取った晴矢は、そこにかかれた短い文章に目を走らせると、いつもほっと安堵の笑みを浮かべるのだ。
「なんだよ風介の奴。それならそうと、夜のうちに言っといてくれりゃあいいのによ」
「はは、風介もおっちょこちょいだよね」
 こんなやりとりを毎日続けて、最初の3ヶ月くらいは、頭がどうかしてしまうのではないかと本気で不安になった。しかし慣れとは怖いもので、半年も経つ頃にはこれすら日常となっていた。
「ココアでも飲んでけば?」
「おう。貰うわ」
 お湯を沸かそうと席をたったとき、晴矢が例の書き置きを渡してきた。これもいつもの流れのひとつ。この書き置きは正真正銘風介が書いたものだ。晴矢は、風介の文字まで知っていて、偽物の書き置きじゃ騙されてはくれない。だからこの書き置きがないとおれは晴矢を騙せない。
「えっ……、ちょっと待って」
「あ?どうした」
 そうだよ。どうして晴矢はいつも、この紙を返してくれるんだろう。これは晴矢に向けてかかれた書き置き。晴矢がそのまま受けとるのが普通なんじゃないのか。
「ヒロトー」
「あ、今つくるから」
 もしかして、晴矢の時間は止まってなんかいないんじゃないのか。本当は風介がいないことも知ってるんじゃないのか。でも、こうやっておれのところにくれば、風介が生きている証拠(例えばこの書き置きやおれの発言)を感じることができるから、記憶のないふりをして、ここに来てるんじゃないのか。
 そういえば、ふと思い出す。
 三年前のあの日、視界には入っていたんだけど、おれはそれを認識することができなかったんだ。その日晴矢の体が返り血で真っ赤だったことを。
 おれには二人の愛を理解する事はできないらしい。




end












怖いわ!



2011/01/30 21:17
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