※同じ学校














「鬼道くん超ウケるッ」
「そんなに笑わないでくれ…」
 今からおよそ30分ほど前。おれは学校で、靴を履き終え、今まさに帰ろうとしている不動の後ろ姿を、下駄箱の向こう側に見つけた。
 おれは委員会の仕事があったため、――不動を含めて――他の生徒はみな既に帰ってしまったと思っていた。しかし、寂しい1人帰りを覚悟した直後に愛しい恋人の見慣れた背中を見つけたのだ。喜びのあまり、慌てて駆け出してしまわぬよう浅く息を吐き出して、右足を一歩だそうとした、そう、その瞬間だ。
「不動くん!」
 なんて、興奮した女子特有の甲高い声が聞こえたのは。
 見れば不動は、驚いたようなあほ面で自分のすぐ右側を見ていた。ついで、不動の右側にある下駄箱の影から、ひとりの女子生徒が現れた。
 髪の毛をふたつに結んだ、まぁ、どこにでもいるような極々普通の女子生徒で、上履きに入ったラインの色からして多分同学年だろう。
 顔を真っ赤にして、手元にかわいらしいピンクの封筒を持って……。あの極々普通の女子生徒が今から何をしでかすかなんて、簡単に理解できた。
「あたしッ、不動くんのことが好きです!」
 言うなり、極々普通の女子生徒は、ぐいぃっと不動の胸元に手紙を押しつけた。おい、おれの不動にそんなに触るな。
 ぐいぐい迫る女子生徒の手紙を、迷惑そうにしながらもそっと不動は受け取った。その時の女子生徒の気持ち悪いほどの笑顔を見たとき、色んな我慢が限界を超えた。
「不動!」
「あれ、鬼道くん。委員会は?」
「とうに終わった。行くぞ」
 がしりと不動の腕を掴み、半ば強引に歩く。さっきの不動よりもっとあほくさい女子生徒のあほ面を見て、ざまあみろ、なんて思ってしまうあたり、おれもまだまだ子供だなと思う。
 校門を出、しばらく歩いて、ふと、掴んだままの不動の腕が震えてることに気づいた。怒ってるのかと慌てて振り向いたら、不動は必死に笑いを堪えていた。
 我慢できずにケタケタ笑い続ける不動を、不覚にも可愛いなぁ、なんて思っていると、不動が言った。
「鬼道くん。随分と前に俺んち通り過ぎちゃったから、鬼道くんち行っていい?」






「鬼道くんのあのまじな顔!今思い出しても腹いてーよ」
 おれの部屋に着くなり、不動はべッドにダイヴした。そのまま、比喩でもなく、本当に腹を抱えて、ベッドの上に転がっている。現在進行形で。
「いやー、告られた時はおれもビビったけどよ。本人よりもあほ面全開の鬼道くん見てたら、笑い堪えんのキツかったぜ?」
「なっ!!気づいてたのか!」
 当たり前だろ?なんて、ニヤニヤ笑う。
「鬼道くんが階段降りてくんのとか、全部計算して靴履いてんだぜ。鬼道くんが後ろから走ってきてくれんのいつも待ってるから」
 顔に熱が集まって来るのが自分でもよく分かった。だからいつも、おれが靴を履こうとすると、必ず不動の背中を見つけるのか。偶然かと思っていた。
「アハハッ!顔真っ赤」
「……うるさい」
 浅く腰かけると、ベッドがギシリとなった。
「さてと……」
 不動が、さも楽しそうに鞄に手を突っ込む。そして、取り出したのは……。
「まだ持ってたのか!!」
「だって道端に捨てるわけにはいかねえだろ」
 相も変わらずニヤニヤしながら、不動は、声に出して読んでやろうか、なんて聞いてきた。
「馬鹿か!早く捨てろ!!」
「はいはい」
 奪い取ろうと手を伸ばせば、ヒョイと避けられる。
 不動はベッドの端までころころと転がって行って、手紙の封をきった。
「おいッ!」
「あー、声はださねぇよ」
 はぁ、深くため息が出た。普通、恋人の前で、他人からのラブレター(……というと古い気がする)なんて読むのか?
「ほー…、なるほどな」
 しばらくして、感心したように不動が手紙から顔を離した。
「何が書いてあったんだ?」
「んー、物好きもいたもんだねぇ」
 質問の答えが返ってきたわけじゃないが、いつものことなので構わない。
「じゃあ、お前と付き合ってるおれはもっと物好きじゃないか」
「はっ、そしたら一番の物好きはオレじゃね?あ、鬼道くんゴーグル外した」
 なんだか分からないが、幸せそうに笑う不動を見ていると、サラッと変人扱いされたこともあまり気にならなかった。(全く気にしてないわけじゃない)
「にしても、鬼道くんすげーつっかかってくんね。何、オレがとられるとでも思った?」
「それは…」
「へぇえ、鬼道くんって、オレのこと信じてくれてないんだねぇ」
「そんな事ッ…」
「その前に自分を信じろよ。『おれ以外のヤツを不動が振り向くわけない』って」
 不動が例の手紙をビリビリに破いて部屋の端にほっぽった。
「不動……」
 ジリジリと近づいてきた不動に、両頬を挟まれた。白い手は、思ったよりずっと温かくて、
「鬼道くんかわいい」
 頭がくらくらした。






「あの、不動くん」
 下駄箱に行くと、靴を履きかけたままの不動が、例の極々普通の女子生徒に話しかけられていた。
「だから、言ったろ?答えはNOだって」
「え、じゃあ、なんでか聞かせてよ!」
「は、はぁ?」
 あからさまに嫌悪感を顔に貼りつけたまま、不動は二、三歩後ろに下がった。
「なんだっていいだろうが」
「好きな人がいるから!?」
「はぁ、」
 ヒートアップしていく女子生徒にとうとう降参したのか、不動がこちらに視線を向けてきた。
 つられてこちらに視線を向けた女子生徒は、見られてたなんて恥ずかしいとでも言うようにハッと顔を赤らめた。……何を今更。
「不動」
「なんだよ」
 見せつけるように女子生徒の前で、不動の肩を抱いた。まぁ、これくらい友達同士でもする。
 だから、これ見よがしに思いっきり口づけしてやった。不動本人も充分に驚いていたが、女子生徒の顔面は凄まじかった。まるで珍獣のゾンビでも見ているような、とにかく破壊力のある顔だった。
 極々普通の女子生徒は、ギャアと叫んで走り去った。悪いがそんな下品な悲鳴をあげる女は不動にはつりあわない。
 と、突然後頭部に鋭い痛みが走った。何事かと思えば、やりすぎだ馬鹿野郎!と、真っ赤な不動が喚いていた。
 後日、おれ達の関係は全校生徒、否、教師までにも知れ渡ってしまった。












甘々だってラブラブだっていいじゃないの



2011/01/25 19:38
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