「ありえねー」
 だって年に一度の年越しだぜ、普通もちっと派手に祝うとかよー、まぁおれららしくていいか。とかなんとか、不動はたのしそうに笑っていた。
 台所に立ち慣れた手つきで皿洗いをする後ろ姿が愛しい。まるで本当の夫婦にでもなったようだ。寒い体を縮めてコタツで暖をとっていると、暫くしてタオルで手を拭きながら不動もコタツに入ってきた。
「あーさみ、ちょっと鬼道くん蜜柑一個剥いてくんない? 指動かない」
「どれがいい?」
「どれも変わんねぇだろ」
「全部顔書いておいた。好きな顔選べ」
「……、ばーか」
 ちょっと、昨日の夜暇だったんだ。そう言えば呆れたように不動は笑う。それから一番手前の左側にある蜜柑を指差して、「その不細工な笑ってるヤツ」と言った。お前に似てると言ったら中指で思いっきり額を弾かれた。痛い。
「じゃあじゃあ、これ鬼道くんに似てる」
「怒ってるじゃないか」
「眉毛が似てる」
「むう、そうか」
「ハハ」
 剥き終わった蜜柑を3粒づつ不動に渡す。不動曰わく1粒づつ食べるのはちまちましてて味わいにくいそうだ。豪快にも3粒づつ食べる不動を見ながらおれも1粒口に放りこんだ。甘い蜜柑だった。
「鬼道くん今何時」
「ああ、もうそろそろだな」
 自分の腕時計もテレビの上のアンティークな置き時計も23時59分を指していた。
「今年もお疲れ様でした」
「ん、色々あったな。お疲れ様」
「あと何秒?」
「あと、30秒くらいだな」
「曖昧じゃねえか。カウントダウンすんの? テレビつけんの」
「テレビは嫌だな。時計がいい」
 鬼道くんいつもそうだよなー、と不動は蜜柑の最後の1粒を口に放りこんだ。
「はい、じゃあ、来年はどんな年にしたいですか」
「平穏に暮らしたい」
「もっとデケェこと言えよ。デケェこと」
「特にない」
 不動が笑う。そういう不動はどうなんだと聞けば、おれも特にないかなと言う。腕時計を見る。すぐに秒針が頂点を指した。
「あけましておめでとう、今年もよろしく不動」
「お、あけおめ。いい一年にしようぜ」
 肩を抱き寄せようとしたら腕を振り払われた。それに驚く間もなく頬を冷たい指先が包み、唇に柔らかいものが触れた。
「へへ、鬼道くんの一番もーらい」
 鼻先がくっつく程の距離で不動が囁く。微笑み返して今度はこちらから唇を押し付ければ、不動がゆっくりと返してくれた。




あけおめ何個書いてるんだよって、


新婚的な甘々あけおめ

 2012/01/01


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