おれ達は何を思い出せないんだろうな。何をなくしたんだろうな。佐久間もおれも何もかも忘れてしまった。
 おれ達は世界一仲の悪い恋人同士。殴る蹴るは日常茶飯事。暴言罵倒は常套文句。手も繋がなきゃキスもしない。それでもなんとなく隣に座って暴言交えて会話をする。こんな関係、どちらも望んでいないけどどちらも必要としてた。
「おれ、なんか思い出せねえんだよな。なんだろうな。くだらないことなのかな」
「きっとそうだろ。そんなもん忘れるのが一番だ」
「そうかよ」
 おれ達はたまたま同一の記憶が欠落していた。白い靄の向こうに存在する何かが思い出せない者同士。その事を2人で源田に告げたら黙って抱き締められた。他のヤツらに言ったって変な顔ばっかしやがる。おれ達の中を流れる時間から離脱していったその正体が、大事な物なのかくだらない物なのかとんと検討もつかなかった。
 佐久間は欠落した謎をそのままにしておこうと言った。一度忘れたんだから思い出す必要はない、思い出す価値もない記憶なんだと。それはそうだと思った。忘れたことを忘れよう。世界一仲の悪い恋人はそう誓い合った。
 なのにおれは夜うとうとしながら、佐久間でも源田でも誰でもない、知らない声が自分を優しく呼ぶのを聞いてしまった。白い靄が呼んでいた。おれは耳を塞ぎながらその声の主を思い出したくてたまらなかった。


ぼくらは大切なあの人を消してしまったらしい

 2011/12/25


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