手の甲が冷たいシーツに押し付けられる。月明かりにぼんやりと、おれに覆い被さった鬼道の顔が浮かび上がった。鬼道の視線はこれっぽっちも揺らぐことなくこちらを捉えている。
「不動、しないのか」
「だからしねえっての」
 なるべく冷めた表情を装ってそう答えれば鬼道は眉をひそめて不思議そうな顔を見せた。そんな彼にまた、胸が痛むような強い愛しさとほん少しの悲しみを感じた。
「わからないな。お前はおれを好きだと言ってくれたじゃないか」
「うん、言った」
 鬼道は、謂わば、愛とか恋とかそういう感情を勘違いしてるらしくて、ずっと流されてたおれは最近やっとそれに気付いた。こういうの柄じゃないけど、流されてた方が全然面白いし楽だけど、コイツの狂った方向感覚を修正してやるのも悪くないかなって思って。今現に愛情表現だか淫売だかわかんねえ行為を始めようとしてるこのバカをどうしてやろうか思考中だ。
「不動まさか不感症」
「殴るぞ。昨日もあんな抱いてやったろ」
「あ、あぁ。そうだな」
 ますます難しい不安そうな顔をする鬼道を見て、なんとなく、どうすればいいかわかった、気がした。
 捕らえられた手をそっと抜き取って自由になったその腕でなるべく優しく鬼道の体を抱き寄せた。お互い男でしかも同じ歳だから体格差なんて全然ないけど、ちょっと位置がずれてる分鬼道の頭がおれの胸元に来る。鬼道の背中と頭に腕を回してその体を捕まえる。鬼道は黙っていた。
「鬼道さあ、今までお前がどんなレンアイしてきたかなんてわっかんねえし興味もねえけど、おれ相手にしてる時くらい無条件で愛されてろよ。こっちだって不安になんだろ」
 小さく、鬼道が息を飲んだのがわかった。
「意味わかる?」
「………わかる」
「嘘ついたらもう触ってやんねえから」
 鬼道はまた黙りこんだ。いいよ。喋りたくないなら喋んなくて。暫くの間鬼道の頭をぎこちなく撫でていると、もぞもぞと鬼道がこちらを向いた。
「なら、おれは何をすればいいんだ」
「なんもしなくていい」
「……わからないな」
「うん、じゃあ、おれの隣にいてよ」
「ずっとか?」
「お前が飽きるまで」
「…………そうか」
 やっぱり鬼道は不思議な顔をしている。
 鬼道には難しいんだ。誰かに必要とされることを、自分の価値を、体で買おうとする鬼道は交換条件無しの恋愛を理解できないらしい。おれもホントはあんまりわかんねえんだけどたまには理想を描いたっていいと思う。全部エゴだけどね。
 自分でバカらしく思えるほどに愛しい存在を抱き締める。やっぱりおれらに体格差なんて全然なかった。


悲しい子供の防衛方

 2011/12/23


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