※幼少
これはすこしまえのおはなしです。
あついなつのひでした。せみがみんみんないていました。ひまわりがいっぱいさいていました。そのこうえんには、さっかーぼーるをもっているぼくと、やきゅうのぼーるであそんでいる、としうえのおとこのこたちと、もうひとり、ぼくとおないとしくらいのおとこのこがいました。そのこはとしうえのおとこのこたちのむこうがわで、ひとりでぼーるをけっています。ぼくはさっかーがだいすきでしたが、そのこはぼくとおんなじくらいじょうずにぼーるをけっていました。だからついついきになって、ぼくはぼーるをけるそのこのせなかをずっとみていました。
としうえのおとこのこたちがなげたぼーるがひゅーんととんで、そのこのあたまにぶつかりました。としうえのおとこのこたちはけらけらわらっていて、ぼくはいやなきぶんになりました。でもそのこはじめんにおちたやきゅうのぼーるをちらりとみて、すぐまたじぶんのさっかーぼーるをけりはじめました。おこらないのかなとおもっていると、としうえのおとこのこたちがぞろぞろとそのこにちかづいていきました。いやなよかんがしました。
おいおまえとあかいふくのおとこのこがそのこによびかけて、かたをぐいっとひっぱりました。はじめてそのこはこっちをむきました。としうえのおとこのこたちがまたわらって、そのときぼくはおどろいてしまいました。そのこのみぎのほっぺたは、まっかにはれていました。とてもとてもいたそうでした。よくみるとひだりのほっぺたもむらさきのあざがありました。そのことほんのいっしゅんだけめがあいました。そのみどりのめがぼくにはなんだかこわくて、だけどさみしくみえました。としうえのおとこのこたちがわらいながら、きたないたこみたいなかおといいました。
とってもひどいことばだとおもうのに、やっぱりそのこはおこりませんでした。こわかったけど、ぼくがおこりたくなりました。としうえのおとこのこたちはみんなでそのこをかこんでいます。そのこはじっと、としうえのおとこのこたちをみあげていました。
おまえそのかおどうしたんだとか、いじめられてんのかとか、としうえのおとこのこたちはわらいながらいいますが、そのこはひとこともしゃべりませんでした。それがいやだったのか、としうえのおとこのこたちのひとりがひょいっとそのこのさっかーぼーるをひろいました。あっと、はじめてそのこがこえをあげました。
おいぼーるかえせよと、いままでしゃべらなかったそのこがさけびました。ぼーるにのばしたうでをべつのおとこのこがつかんでひっぱります。ぼーるをもちあげてるおとこのこがわらっていました。さけんであばれるのをやめたそのこは、じっとぼーるをもったおとこのこをにらんでいました。
そんなににらむなよ、たこづらがこわくなってるぜといっておとこのこはぼーるをおもいっきりなげました。なげたぼーるはとんでとんで、こうえんのとなりのはやしのなかにきえました。そのこはつかまれているうでをふりきってはやしのほうへはしっていきました。いっちまったよとわらいながら、としうえのおとこのこたちもどこかへいきました。ぼくはこうえんにひとりぼっちになりました。せみががさがさっととんでいきます。ぼくもはやしのほうへはしりました。
おとこのこはせのたかいきのしたにいて、あしもとのいしをひろってはなげていました。ぼくがおとこのこのうしろにたつと、おとこのこはふりむいてぼくをみて、やっぱりひとこともいわずにまたまえをむいていしをなげはじめました。ぼくはうえをみました。さっかーぼーるがひとつきのえだにのっかっていました。おとこのこのなげるいしがきのえだにぶつかってはおち、ぶつかってはおちをくりかえしていました。
おとこのこのあかくはれたよこがおはなんだかひっしでした。そんなとこをみて、ぼくはついおとこのこにこえをかけてしまいました。これをつかったらとれるかも。そういってぼくはたいせつなさっかーぼーるをおとこのこにさしだしていました。
おとこのこはまたふりむいて、ぼくのかおとさしだされたさっかーぼーるをこうごにみました。それから、かしてとちいさくいいました。なんだかすこしだけ、うれしかったのをおぼえています。
おとこのこはうけとったさっかーぼーるをうえになげて、おちてきたそれをちからいっぱいけりあげました。ぼくのさっかーぼーるはぐんぐんうえにのぼっていってばきばきえだをおりながら、おとこのこのさっかーぼーるのおしりをぽんっとおしました。ふたつのぼーるがたくさんのえだといっしょにふってきました。えだがめにささったらいたいのでぼくはぎゅっとめをとじていました。ぱらぱらというおとがやんだころ、めをあけるとおとこのこがふたつさっかーぼーるをかかえていて、きれいなほうのさっかーぼーるをぼくにさしだしました。
ふたりでこうえんのべんちにすわりました。ぼくはたくさんたくさんおとこのこにはなしかけました。まず、そのさっかーぼーるがとってもたいせつなんだねといいました。どうしてときかれたので、だってあんなにおこってたじゃないかといいました。するとおとこのこはこれはかあさんがくれたんだ、たいせつなんだといいました。おとこのこはうれしそうでもかなしそうでもありませんでした。
つぎにぼくは、そのほっぺたいたそうだねといいました。おとこのこはいたくないといいました。いじめられてるのときくと、ちがうよかあさんがなぐるのっていいました。ぼくはびっくりしました。おかあさんこわいのときくと、ちっとも、とかえってきました。ぼくにとってそのこはわからないことだらけでした。でも、なかよくなりたいとおもえるこでした。だからともだちになろう、いっしょにさっかーしようっていったのにそのこはだめだっていいました。ぼくがなんでってきくと、そのこはいいました。ちかいうちにとおくへとおくへひっこすんだ。かあさんとふたりですむんだ。だからもうここにはこれない。
ぼくはちょっぴりかなしくなりました。だからまたいつかあおうっていいました。でもやっぱりおとこのこはくびをよこにふって、もうあわないよといいました。
おとこのこはべんちからひょいとおりると、どろだらけのさっかーぼーるをかかえてこうえんをでていきました。
ぼくはあのこにもういちどあいたいです。だからおおきくなったらさがしにいこうとおもいます。それまでわすれないでいるために、にっきをかきました。おおきくなったぼくへ、ちゃんとあのこをさがしてください。ちゃんとあのことあってください。そしたらいっしょにさっかーしてください。
サッカー少年のある1日
2012/08/14
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