※ちょっと注意



 屋上のフェンスの向こう側に佐久間がいた。こちら側にはおれ。おれ達の頭上にはおんなじ空が広く広く続いている。
「なんでお前がそこにいるんだろうなぁ」
 感情のない目をして、佐久間が呟く。風がびゅうびゅう。佐久間の長い髪が揺れる、揺れる。
「お前、なんなの。そういうの、全然親切なんかじゃねえから」
「……これが、おれなりの親切なんだ」
「バっカじゃねえの。受け取れねえよ」
 佐久間は眉根をぎゅっと寄せてこっちを睨みつけた。だが、彼の瞳は躊躇いに揺れている。やはり佐久間はまだ、悩んでいるのだ。それでも本人は自分の意志を曲げようとしないらしい。
「源田、よく聞け。……おれは、もう、諦めたんだ…。そ、……それに…、」
「それに…?」
 言いよどむ佐久間に優しく先を促す。佐久間は一度視線をさまよわせた後、今度は困ったように眉を八の字にした。
「おれ、…源田みたいに、強くなれない、か、ら…、だから…」
「だから、諦めるって言うのか?」
「………」
 佐久間が俯く。
「佐久間、お前は強いよ。今までこうしてやってこれたんだ。立派じゃないか。だから、また一歩踏み出せ。こっちへ来い。それでもお前が弱いって言うなら、お前に強いと言われたおれが一緒だから、な?」
 佐久間の表情が歪んだ。あと一押し。あと一押しなんだ。
「佐久間、ホラ、下見てみろ。グラウンド。何人かがおれ達に気づき始めてる。……誰かが先生まで呼んできて、大事になったらどうする。お前、そういうの嫌なんだろ?」
「あ………」
「佐久間、大丈夫だから。おれを信じろ」
「……げ、だ…」
「佐久間、こっちへ来い!!」
 力強く呼びかけると、途端に佐久間の目に光が走った。佐久間は足に力を入れて大きく躍動すると、フェンスを掴んだ腕を軸に、体を振り子のようにして、ぐいんっとこちら側に降りてきた。
 佐久間の体を抱き止める。長い髪からシャンプーが香った。
「随分乱暴に動くんだな…危ない…」
「お前が来いって言うから…」
「ふふ、可愛いな相変わらず」
「うるさいバカ。源田のバカ」
 佐久間の体を抱きしめる。答えるように佐久間の腕にも力が入る。おれは自然と微笑んだ。
「愛してる」
「…ん」
「ずっと一緒だ」
「ん」
「じゃあ、行こうか」
「…ん」
 佐久間を抱きしめたまま地面を蹴った。気持ち悪い浮遊感。誰かの悲鳴。耳元で風はびゅうびゅう。佐久間の長い髪が揺れていた。








ボクら仕掛けのグラウンド心中


 2012/07/21


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