待ち合わせ時間はいつも午前1時なんだけどおれはその時間ぴったりについた試しがない。かといって5分以上遅れたこともない。1時2、3分頃に来るのが定番だった。源田はそれに何も言わない。いつも何も言わずに15分近くも待っててくれる。
 今日も今日とておれは1時ほんの少し過ぎに待ち合わせ場所の公園にふらりと現れた。暖房の余韻の残る生暖かい部屋を出ると凍りつきそうな風が体を巻いた。あぁ寒い。
 暗い公園のベンチには源田がひとりで座っている。おれが公園に足を踏み入れるとまるで気配を感じたかのように源田がこっちを振り向いた。
「よう、不動。寒いな」
「ああ」
「ほら」
 源田が差し出したのは自販機なんかによくあるあったかいお茶だった。緑茶。しかも濃いヤツ。
「なんでこんな渋いのにしたの」
「お前の好みをよく知らないから、無難なのにしといた」
「そう。ありがと」
 源田は黙ってお茶を一口飲み込んだ。おれはそんな源田の隣に腰掛けた。お茶のキャップを取るともくもく白い煙が暗い中で微かに見えた。すごくすごく寒い。きっと隣に源田がいなかったら凍えてるよ。じんと冷えた指先を小さなボトルで温めてると不意に源田に力強く引き寄せられた。あっぶね、お茶零れそうになったじゃん。
「……」
 そんな文句も喉の奥で小さく消えてしまった。源田がじっとこっちを見てた。なんだよ。やっぱりゴールキーパーのデカくて力強い腕の中に閉じ込められるとそれなりの圧迫感とかなんかあるわ。温かい。
「寒いな不動」
「そりゃ、冬はさみぃよ」
「そうだな」
 手に持っていたお茶のボトルをベンチに置く。また冷たくなっていくおれの指先を源田の手のひらが包み込んだ。源田の手生ぬるいわ。2人揃って手袋持ってきてねえんだよ。こんな真冬の夜なのに。
「不動、」
「んだよ」
 源田がちょっと微笑んで口を開いた。
「鬼道のこと、好きだろ? この先もずっと」
「………まあ」
 手も繋いだしキスもしたしセックスもした。鬼道くんとおれは、所謂恋人同士だ。でも、おれは源田が大好きだ。今も、この先もきっと。
「そうか、うん。それでいいんだ」
 源田はそう言って抱き締めてくれた。すごくあったかくて、切ない温度だ。
「源田は?」
「ん?」
「おれのこと、どうなの」
「…ごめんな。愛してる」
 源田は躊躇うことなく答えた。ごめんは余計なんだけどさ。でもその解答はひどくおれを安心させた。おれだけが、安心した。だってコレ、おれは鬼道くんを裏切りながら源田を傷つけてるんだから。


拝啓Kくんへ浮気性でごめんね

 2011/12/12


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