涙を流すのは心のリセットになるんだってさ。昔テレビでやってたよ。だからおれは泣くのは嫌いじゃない。泣いて泣いて泣いて、記憶までリセットしちゃえばいいのになんて、よく思うけど。
 鬼道くんは泣き虫だった。意外な事実だ。鬼道くんは何かあるとすぐ泣いた。涙もろいっていうか、常にだだ漏れって感じ? それでめんどくさくなって情けねえなって言うと、じっとり睨んでくる。きっと優しくされたいんだって思って、なんでおれに優しさを求めんだよって小さく文句を言ってから、でも強く突き放せないおれは鬼道くんの泣いて熱く湿った背中をぽんぽんと撫でてやる。鬼道くんはこうされるのが好きらしい。天才ゲームメーカーだかなんだか知らねえけど、鬼道くんお子ちゃまで甘えん坊だよな。そういうとこがまぁ、可愛かったりもするけど。
「今日はなんで泣いてるの」
「知らない」
 ガキかよ。理由もなく泣いちゃうわけ?
「ただ、」
 鬼道くんが目を擦る。腫れたらどうすんだよ。格好悪い鬼道くんなんて見たくない。鬼道くんの両腕を掴む。
「色々考えてたら、泣きたくなったんだ」
「…なんだよそれ。笑えねえよ」
 鬼道くんは子供だ。不器用だから、悲しみの逃がし方をよく知らないんだ。バカだから、おれの前だけで泣くんだ。きっと佐久間とか、円堂の方が、甘やかし方を知ってるのに、鬼道くんはなんでここにいるんだろうね。
「だってお前は優しいじゃないか。黙って隣に居てくれるじゃないか。なによりお前はちょうどいい。少し冷たくて、少し温かくて、居心地がいいんだ」
 おれは涙を理解してるらしい。鬼道くんが泣く意味がわかるらしい。当たり前だ。分かりやすいから、みんな知ってるよ。鬼道くん。お前まだまだ子供なんだから。
 泣いて泣いて泣いて、記憶までリセットしちゃえばいいのにね。


涙のスイッチ

 2012/04/03


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