気分転換行こうぜと友人にメールを送ればいいぜと一言返ってきた。
 しかし、彼を友人と呼んで構わないものか。おれと不動が最後に会ってから既に三年弱は経過してるし、高校も違ければそもそも住んでる所が違う。多分。ぶっちゃけ住んでるとこもよく知らないしな。それでも、ホントは、風介でもヒロトでも良かったはずなのに、気がついたらソイツにメールしていた。不動ってメールの返信早いんだな。風介からの返事は待つより直接聞きに行った方が早いくらいだし。いや、アイツは例外だよな。てか不動、暇だったのかな。
 とにかく、不動の最寄り駅に集合する事にした。今はまだ早朝でいくら駅前と言えど始発もまだだろうし人影は少ないだろう。不動には厚着して来いよと伝えて、おれはバイクに跨った。ヘルメットは2人分。あ、アイツ駅まで何で来るかな。チャリ、いや徒歩かも知れない。駅近いっつってたしな。まぁ、好都合だ。
 それから、不動の駅まではすぐだった。やっぱ朝早えと人も車も全然いねえんだなとか、そんなどうでもいいことを考えながら、誰もいない暗い夜道を駆け抜けた。正直いうと、あんまり運転はうまくない、というか、実は普段そんな乗らない。これ言ったら不動帰っちまいそうで怖いけど。
 駅前のロータリーも薄暗く、電灯の下とコンビニの前だけがほんのりと明るい。温かそうな冬物のジャンパーを羽織った不動は、電灯のついていない電柱に寄りかかっていた。全体的に服装が黒いから最初わからなくて素通りした。最後に会ってから随分経つから、意味もなくどぎまぎしながら声をかける。
「……よぉ」
「おま、バイクかよ。ひとりで舞い上がっちゃってる可哀相な不良かと思った」
「んだそれウゼェ」
 不動は、随分と印象が変わった。目を細めて笑うその顔にもう幼さはない。大人らしくなった、そんな感じだ。髪型もあの頃のモヒカンの影もなく、どちらかと言えば髪は長めだ。
「お前あの頃と変わんねえのな」
 不動はそう言った。おれはホントに何も変わらねえんだな。顔立ちだってまだまだ子どもっぽいって周りに言われる。どうしたもんかね、もう18だってのに。
 軽く話をしてから、不動を後ろに乗せる。ヘルメットを被らせて、適当にその辺掴んどけよと言えば、お前掴みづらい服着てるなと言われた。エンジンを入れると途端に不動は喋らなくなる。多分一言だけ、近所迷惑じゃね? と呟いた、気がする。
 バイクの運転、しかも2人乗りなんて慣れてないし、うっかりミスして不動を殺してしまったら申し訳ない。だから、運転には全神経を使う。本人的には大声を出したくないだけだろうけど、不動も話しかけてこない。まぁ、こんだけスピード出してればな。道沿いの街灯がビュンビュン通り過ぎていく。体が風を裂いて進む。とても心地よかった。車のいない、ほぼ独占状態の道路をハイスピードで駆け抜けるのは気持ち良いものだ。
 赤信号に何度か止められながらも、下道を通って海を目指した。不動に行き先は告げてないが、方角でだいたいわかってるだろ。きっと不動は頭がいいから。
 東の空が青くなっていく。すれ違う車の数が増えていく。途中に寄ったコンビニで、おれはお前の彼女かよと不動が笑った。嫌ならバスでも電車でも乗って帰れよと言えば、金持ってきてねえよとおどけて笑ってみせる。こいつ成長したなあとか、一丁前にしみじみしてみたり。
 海に着くと、思ったより風がふいていた。海風に乱れる髪を気にせず、2人して海岸沿いの階段に腰かける。コンクリートの階段は砂や風化でざらざらしていた。
「気分転換ってことはさ」
 不動が呟くように言う。ヤツは海をまっすぐに見つめている。
「最近なんか詰まってた感じ?」
 おれは何度かまばたきをしてから、不動と同じように海に目をやった。波の音が耳を打つ。
「別に、そんなんじゃねえけど。……ただ、最近空気がどんよりしてて、風浴びたかっただけだ」
 ふうんと、不動は興味なさげに言う。空はまだ薄暗いが鳥が数羽飛んでいるのが見える。不動は空を見上げたり、海を見たり、砂浜に降りたりしていた。それから、小さな白い貝殻を拾ってジャンパーに仕舞う。記念かなんかに持って帰るようだ。ゆっくり朝日が顔を出す。その光を背に、砂浜に佇む不動が振り向いて言った。
「たまにはいいな、海も、朝も」
 また連れてこいよと逆光の中で不動が笑う。気が向いたらなと、おれは笑って返した。



例えばこれが一度きりの朝焼けならば

 2012/04/01


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