「鬼道くんにとって、おれ、どんな存在?」

 それは、興味本位の見学会。
 鬼道くんは世間知らずのお坊ちゃまだから外界に興味を持つことは大変良いことだ。将来人の上に立つ鬼道くんも、もっと色んなことを知るべきだ。だから、って、わけじゃない。おれは、手の中のカッターをキチキチ鳴らす鬼道くんを見上げた。
「それ、かして」
 鬼道くんがポン、とベッドの上にカッターを投げた。ちゃんと刃のしまわれたそれを拾う。少し、刃を出す。
「切るのか」
 この部屋に来て初めて鬼道くんが声を出した。切るよ。切るの、見たくて来たんだろ。そう言ったら鬼道くんは口角をニヤリと吊り上げた。趣味悪いのはお互い様。そんな鬼道くんが好きで好きでたまらないんだからさ。
 袖を捲る。どこがいいの、と問う。鬼道くんはどこでもいいと冷たく言った。やっぱりもう一度袖を捲る。
 左手首内側。一昨日の傷の上に刃をあてる。何度も何度も切ったそこは、古傷とか生傷とかでガタガタだった。
 2人して無言だった。おれはいつもよりゆっくり、緊張しながらカッターを動かした。ササササと肌の裂ける音。痛いくらいに集中してる鬼道くんの視線。
 カッターを肌から離す。理由もない一時的な安堵感が体を巡って、血がだらりと零れ落ちる。ベッドを汚さないように、ハンカチとか適当にキツく巻いといた。
「はい、おしまい」
「痛みは?」
「無い。慣れた」
「そういうものか」
 鬼道くんは、興味なさげにそう言った。
 それから思いついたように突然、おれの手首からハンカチを奪いとる。血の滲んだハンカチがベッドに落ちる。赤が感染する。
 鬼道くんが、まだまだ新しい傷に、結構強い力で爪を立てた。
「いっ…た……」
「痛いか?」
 また、無表情な鬼道くんが尋ねる。痛いよ、痛い、離せっていったら鬼道くんは素直に手を離した。おれはたまに鬼道くんが理解できないんだ。けど
「お前は何故、こんなことをしているんだ」
「……鬼道くんに振られちゃったからだよ」
「あまり綺麗な理由じゃないな」
「造りもんじゃねぇもん。しょうがねえじゃん」
「つまらんな」
 それだけ言って、鬼道くんは何事も無かったかのように部屋を出ようとする。やっぱりおれはつまらない人間だから、その冷たい背中に無意味な質問をぶつけてしまう。
「なぁなぁ、鬼道くん、いっこだけ教えてほしんだけどさぁ」


涙が傷口に染みます

 2012/02/05


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