帰りが遅くなるかもしれないとメールが来て一番最初に思いついたのが人身事故。人身事故で電車が遅れるのは(不幸なことではあるが)よくあることだし自然とその他の理由(おれにとっての最大の不幸)は思考の向こう側に追いやられてしまった。だからメールで人身事故かと問うたら今どこにいんだよとすぐに返信がきた。家にいると答えたらテレビ?と、単語がはてな付きで返ってきた。思わず部屋の隅っこの小さな画面を振り向くがなんともない、ただの電源の切れたテレビだ。もしかしたら少し会話が噛み合っていないかもしれない。だからつい話を逸らして今晩はシチューでいいかなと聞いてみた。不動からの返信はない。無言は基本的に了承の合図だ。あいつはメールがあんまり好きじゃないから、必要最低限しかメールしたがらない。
 台所に立ってシチュー作りの準備を始める。その時我が家の台所から塩が枯渇していることに気がついた。これは大変な事態だ。塩がないなんて明日から生きていけないじゃないか。そう思い立って部屋を出る。もちろん置き手紙を玄関に添えて。でもまあ多分、おれの方が早く帰るだろう。
 満員電車ぎゅうぎゅう状態だろうから不動はイライラしてるかもしれない。人混みが嫌いだから疲れてでろでろかもしれない。そしたらあったかいシチューを作って待っててやらないとな。不動はおれの料理をうまいと言ってくれるから。
 コンビニの帰りにどこからともなく踏みきりの音を聞いた。そろそろ不動は帰って来るだろう。


部屋と踏みきり

 2012/01/28


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