title by ラズバン
闇が恐い朝も恐い(西喜)
「ボクまた背が伸びたみたい」 ポツリと呟く西野空はいつも以上によくわからない表情をしていた。その表情は、何かが抜け落ちたみたいに虚ろで、どこか悲しそうにも見える。 「喜ばしいことじゃないか」 おれは思った通りのことを素直に言った。背が伸びるのは立派に成長してるってことじゃないか。まぁ、コイツの場合、中身はあまり立派ではないが。 「背が伸びたってことはさぁ」 「ん?」 「ボクら、大人に近づいてるってことだよねぇ」 「……」 西野空は後ろに手をついて空を仰いだ。その時彼は小さな声で「大人になんかなりたくないね」と言った。それを聞いて、そうだなとか、そんなことないとか、そういうことを思うより先に、あぁコイツもこういうことを考えるんだな、なんて思いが頭をよぎった。 「それは……、ワガママ、だな」 知らないうちにそんな答えが口から出てきた。きっと今コイツが欲しいのはこんな冷たい答えじゃない。でも、 彼がこちらを向いた。驚いたように二、三度まばたきをすると、彼はいつもよりずっと穏やかに笑って見せた。一瞬のことだった。似合わないとも思ったが、思わず胸が痛くなったのもまた事実で。 「そーだねぇ。うん、ボクはずっとワガママでいたいんだ」 おれの手からオレンジジュースの紙パックをひったくる彼はまさにいつもの西野空で、それにかすかな安心感を覚えながら、ヤツの膝を思い切り蹴ってやった。
----- 「ところで何センチ伸びたんだ?」 「ん? 3ミリ」 「……そうか」
2011/10/09 20:33 |