短文置き場 
title by ラズバン

闇が恐い朝も恐い(西喜)


「ボクまた背が伸びたみたい」
ポツリと呟く西野空はいつも以上によくわからない表情をしていた。その表情は、何かが抜け落ちたみたいに虚ろで、どこか悲しそうにも見える。
「喜ばしいことじゃないか」
おれは思った通りのことを素直に言った。背が伸びるのは立派に成長してるってことじゃないか。まぁ、コイツの場合、中身はあまり立派ではないが。
「背が伸びたってことはさぁ」
「ん?」
「ボクら、大人に近づいてるってことだよねぇ」
「……」
西野空は後ろに手をついて空を仰いだ。その時彼は小さな声で「大人になんかなりたくないね」と言った。それを聞いて、そうだなとか、そんなことないとか、そういうことを思うより先に、あぁコイツもこういうことを考えるんだな、なんて思いが頭をよぎった。
「それは……、ワガママ、だな」
知らないうちにそんな答えが口から出てきた。きっと今コイツが欲しいのはこんな冷たい答えじゃない。でも、
彼がこちらを向いた。驚いたように二、三度まばたきをすると、彼はいつもよりずっと穏やかに笑って見せた。一瞬のことだった。似合わないとも思ったが、思わず胸が痛くなったのもまた事実で。
「そーだねぇ。うん、ボクはずっとワガママでいたいんだ」
おれの手からオレンジジュースの紙パックをひったくる彼はまさにいつもの西野空で、それにかすかな安心感を覚えながら、ヤツの膝を思い切り蹴ってやった。

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「ところで何センチ伸びたんだ?」
「ん? 3ミリ」
「……そうか」
2011/10/09 20:33

title by 星葬

優しいエゴが欲しいのです(西喜)


最近お前ら仲がいいなと言われた。少し意外だとも。
同じ部活だから不思議じゃないだろうと言ったら、それにしたって仲がいいと返された。
「言わせとけよ、そんなの」
呟きに近いおれの言葉に、西野空はさして気にする様子もなく、めんどくさそうに返した。
別に自分も気にしてるわけじゃない。ただ、客観的に見たおれ達の姿を、彼にも伝えるべきと思ったから。でも、まぁ当然と言うべきか、西野空にその事を気にする様子は無かった。
「てゆーか、いちいちヒトの視線ばっか気にしてたらめんどくさいでしょー。そーゆとこ喜多ってめんどくさいよね、イタッ」
相変わらずおれを苛々させるのが得意らしい西野空の頭を軽く叩く。西野空は叩かれた頭に手を添えながらも、まだニヤニヤ悪そうな笑みを浮かべていた。
「全く。……なんでお前のことなんか好きになったんだろうな」
割とお決まりに近い台詞を吐いて溜め息をつけば、西野空はなおも楽しそうに笑った。
「ホントだよね。そればっかりはボクにもわかんないし」
「お前にわかってたまるか」
いつもヘラヘラしててだらしがなくて、おれを苛つかせるのが好きらしくて、とにかく腹立たしいヤツなのに、なんで好きになってしまったんだろう。
理由は全く謎の中だが、それを探すのは億劫だ。


2011/10/05 22:10

title by 星葬

グッバイだけでよかったじゃない(吹基)


「君が何考えてるのか全然わかんないよ。何がしたいんだい」
「んー…。暇つぶし、かな?」
暇つぶしだってさ。そんな利己的且つくだらない理由で男に押し倒されてるなんて、おれちょっと情けないんじゃない?
「もういいでしょ、早く退いて」
口調こそ平静を装ってるけど、これってかなり危機的状況なわけだよね。吹雪くん無駄に力強いし。
キツく睨みつけて早く退くように伝えると、いつも女の子達を惑わす濃いグレーの瞳がきょとんとこちらを見つめてきた。
「なんで?」
「気持ち悪いから」
「へぇ、そう」
簡単な返事とともに、おれの手首を掴む手がパッと離れる。逃げられる、って思って体を起こそうとした瞬間、唇に何か柔らかいものが触れていった。
それが何であるか、一拍おいて気がついた時には既に手遅れで。
慌てて起き上がった頃すでにその犯人はおれより5、6歩分も前に立っていた。
セーターの袖で慌てて口元を拭く。
「ヒロトくん」
すべての元凶である張本人が呼びかける。おれは必死に無視を決め込もうとして後ろを向いた。
「聞こえてる? ぼく、ヒロトくんのことが好きなんだ。もちろん恋愛感情として。じゃあ、またね」
しばらくの間響く足音。どんどん小さくなっていって、やがて聞こえなくなる頃に、おれはその場にしゃがみこんだ。



11/11/13 うわあバカした/(^O^)\ 一部訂正
2011/10/05 08:04

title by 星葬

ピエロは泣かない(佐久鬼)


「いつもありがとう佐久間」
そう、まるで何も知らないみたいに鬼道は言った。
「別に、どうってことないさ」
「…いや。お前にとってはどうでもいいことかもしれない。だが、おれはその小さな優しさに救われてるんだ」
赤く綺麗な目を細めて、本当に、本当に嬉しそうに、でも、どこか寂しそうに鬼道は言う。
そんな鬼道の様子に胸が痛まないはずがない。けど、
「鬼道…」
「ありがとう佐久間。ありがとう」
静かに涙を流す鬼道の肩を抱きながらも、本当にこうして欲しいのはおれなんかじゃないってわかってる。
ごめんな鬼道。お前が愛したアイツは、このおれが沈めたんだ。


2011/10/04 20:07



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