このままで。

Always been this way.

息衝く

 ぼうっと見つめる砂漠の向こう。砂が宙で舞い踊っている。
 場所は町外れ。まだ日が高い。エンストした車の修理はもう少し時間がかかるようで、ただただ、手持ち無沙汰。時間を潰そうにも、数十分前に車から見えた人通りの多い街まで行くには時間がかかるし、不用意に出歩くといつ敵と遭遇するかわからない。
 そうなると暑さを凌ぐくらいしかすることが無いもので、俺は近くの建物の影に立っていた。まだ影になる物があるから良かったが、この先は砂漠だ。進む方角は既に視界が開けていた。

「承太郎」

 同じように時間を持て余しているヤツが、もう一人。

「隣、いいかい」
「構わねえよ」

 そう言うと、花京院はへらっ、と顔を緩める。隣に腰を下ろした花京院は、君も飲む?と水筒を差し出してきた。しゃがみ込んで受け取ると、2時間前には冷たかった水がすでに微温湯になっていた。

「なんだか、こんな手持ちぶさたな時間は久し振りですよ」
「確かにな」
「だから、どうせなら君と、ね」

 気付けば俺の隣には、こいつの笑顔がある。もう、何度見ただろう。あと、何度見るだろう。
 じい、と横に並んだ花京院を眺めれば、彼は同じ様に行く先の地平線を見ていた。いや、もっとその先か。

「しばらくは宿無しですね」
「もう慣れただろ」
「ええ。でも、二人きりになれるチャンスが減るね」

 下から覗き込んでくるいたずらな瞳。期待しているのを隠さない、彼にしては珍しい表情な気がする。

「…チャンスは今、か」
「正解」

 ふむ、と辺りを見回す。建物の影で、しかも回りには人が見当たらない。もう一度花京院を見つめると、やはり変わらない微笑みを向けていた。断ることはないと確信しているらしい。

「…まあ、良いぜ」

 そう言って帽子を取る。キス以上の時はどうしても邪魔になるからだ。…つまり帽子を脱ぐことは、それ以上を許可することになる。髪をかきあげて、少し目線を下げれば、

「それは、君からキス以上をせがんでると捉えていいんですか?」
「…」

 自分の期待の方が、彼より大きかったことは少なくない。

「君の表情がよく見れるのは、嬉しいですけど」

 す、と頬に手を伸ばして、近付いてくる。その花京院の手に、自分の手を乗せた。

「だめでしたか」
「いや…別に良い。好きだからな」
「僕も」

 それを聞いて、自然と、笑顔になれる。
 ゆっくりと唇が近付いて、唇と重なった。舌を割り込ませて歯列をなぞれば、じゃり、とわずかに異物の感触。ざらざらとした舌触りは、ホテルの二人部屋でするときには感じない。新しくて、珍しい。息が漏れた。

「ふ…」

 口付けはもう何度目かも覚えていない。でも、このキスは、もうこれきりだ。

「やっぱり、砂はきついなあ」
「んなの気にしてたら、この先一日中口ん中が砂まみれだぜ?」
「ああ、なんか嫌ですね…僕、口が大きいから入る砂も多そうだ」
「違いねえな」

 からかえば少しは顔をひきつらせるかと思ったが、ほんのちょっと、笑顔を歪めただけだった。その当たり前のようにある表情が、側にあって欲しいと、心から思う。

 向こうからエンジン音がする。風が止んだ。



この本文を書くまで、花京院に敬語使わせてなかったなと気付きました。貴重な丁寧語要員なのに。
診断メーカー(http://shindanmaker.com/276356)からのネタです。診断結果は
花京院→息をするように君の隣で笑っていたい
承太郎→息が止まる
『止まる』って、承太郎が絡むと途端に意味深になりますね。敵の能力であり、自分も身に付けることになる。承太郎が世界を使えた理由として能力や才能を持ってたのは勿論ですが、花京院と過ごす時間を止めておきたい、という願望はあったのかも。花京院がいつものように隣で微笑んでいてくれれば、それで良かったんだろうなあ。

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