このままで。

Always been this way.

酸いも甘いも

きしりと響いたベッドのスプリング。
それが、ホテルの同室で寝ていた、花京院の立てた音だと承太郎はすぐに気付いた。
時刻は、午前1時。
夕食時にはポルナレフたちもいて賑やかなものだったが、今は星明かりが静かに夜を奏でている。

「承太郎…起きてる?」
「…ああ」
「そっち、行っても良い?」

返事をするより早く花京院は立ち上がり、またも響くスプリング。
そして、二歩ほどしか離れていない距離を惜しむように、歩み寄る。
何も言わず、承太郎のベッドに腰掛けた。
明かりは点けない。
二人とも、それを望んでいないのは沈黙が証拠。
目では見えなくても、さっきより近付いた互いの距離。
視線を合わせることがなくても、承太郎は花京院が自分に何を訴えているのかを感じ取っていた。

「…怒っちゃあいねえよ」
「…」
「だが、寝込みを襲うのはもうやめろ」

襲う、という表現に、花京院は胸を痛める。
すでに、花京院は二度手を出していた。
といっても、寝ている承太郎にキスした程度だが。
一度目は、完全に気付かれなかった。
二度目は、唇が触れた直後に承太郎が目を覚ました。
前に泊まったホテルでの出来事だ。
それから3日、野宿か車の中で過ごしている間、二人は必要最低限の言葉しか交わしていなかった。

だから、薄々感じてはいた。
次に二人きりになるとき、おれは花京院に答えなければならないと。

ホテルで全員が個室に割り当てられない時に、二人が同室にされるのはいつものこと。
勿論、拒否する理由など無かった。
しかし、相手の気持ちを知った今、少なからずその状況を避けたい気持ちがあった。
そんな思いとは裏腹に、この時間は来てしまった。
月明かりが差し込んで、互いの顔が照らし出される。
承太郎が体を起こす。

「…花京院」

呼ばれてこちらを見たその目。
罪悪感と、それ以上に抑えられない感情に支配されて、闇に溶け込んでしまいそうな心と同じ色。
その闇すら包みたくて、承太郎は、強く、しかし優しく言った。

「本当の気持ちを、隠さないでほしい。おれは、お前を受け止めてやりたい。お前が望むならな」
「僕は…好きなんだ、君が」
「それはわかってんだよ」
「…?」
「今、お前はどうしたいかの問題だ」

花京院はすぐには答えなかった。
合わせたままだった視線を外し、次の言葉を探す。

(強引に唇まで奪って、それなのに承太郎の優しさに甘えようなんて…)

自分の本心と消えない対立した思いとが、またしばらくの沈黙を作り出した。
承太郎には本心などとっくに知られているのかもしれない。
だが、本当にその想いを伝えて、叶わなかったとき、花京院には自分の心を制御する自信がなかった。
傷付きたくなくて、卑怯な手を使ってしまった。
それをまた、重ねるようなことをしてしまったら…。

「…花京院?」

承太郎は、返ってこない言葉を待ち続ける。
ようやく、おもむろに動き出した花京院の唇。

「…ごめん。まず君には、謝らなくちゃあいけない」
「そうだな、謝罪の言葉は受け取ってなかったからな」
「その上で、もう一度言いたい。君が好きだ。だから…今、君が許してくれるなら、」

花京院は、自身の体を相手の方へと寄せた。
そして、承太郎の下唇を親指でなぞった。
承太郎の表情は、変わらない。

「…こんなこと、許されるわけがないのに」
「何故だ。おれは拒まない。さっきも言っただろう、受け止めてやると」
「良いのかい」
「おれがお前を嫌いじゃない内はな」

最後の、ぶっきらぼうを装った言葉で、承太郎自身が耳を赤くした。
それが、暗い部屋の中、相手に見えないことは救いだった。

「…ふふっ」
「…何がおかしい」
「いや、何でもない。…大好きだ、承太郎」
「…あんまり調子乗るんじゃあねえぞ」

近付く花京院の体温を感じて、承太郎は目を閉じた。
三度目の口付けは、互いの熱で溶けるように絡み合って、甘酸っぱかった。




初めて…だったんです、キスするの書くのは
私の脳内だとしょっちゅうしてます
花京院はヘタレでも積極的でもおいしいです
花京院よりも承太郎のほうが、相手に好きって抵抗なく言えちゃう方だと思ってます

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