このままで。

Always been this way.

君と見た海(花承・幽霊院ネタ)

花承闇鍋で描かせていただいた「Unknown Color」の、3部終了後、というか4部直前の時期の続編です。幽霊院です。序盤だけですが、解説を入れたくて。書き終えて解説することでもないかなと思ったんです。

***

今年の夏の「海」を、君は探す。

八月の炎天下。じりじりと熱を帯びた大気が体にまとわりつく。例年と変わらずとも、コンクリートの地面の上ばかりにいては生きた心地を感じられない。
花京院典明は、そこにいた。物理的にではない。実体を伴わない彼は、それこそ怪談話で喜ばれるような存在なのだろう。ラップ音を立てたり、写真に映り込んだり、そういう類いの現象を起こす存在――つまり、幽霊。最も、花京院は決して心霊現象は起こさないでいた。自分の訴えかけは、目の前にいる男には伝わらないから。
(また仕事か…休むつもりも無いんだろうな、君)
男の名前は空条承太郎と言った。既婚。娘が一人。花京院にとって、初めての信頼できる仲間だった。同じスタンド使い同士だった。ある意味、そのことは僕らを繋いだ。そんなきっかけの存在は、僕の前から消えた。僕が死ぬのと同時に。
実に、十年。僕が死んでから。「法皇の緑」が消えてから。承太郎と、話せなくなってから。

『僕の一番好きな海に行こう。次の夏、僕の誕生日に』
あれから、彼は毎年夏になると必ず一人で海を訪れるようになった。それは研究の為でも、調査の為でもない。ただ、約束を果たす為に。知り得た花京院典明の過去をもとに、訪れた可能性のある海を巡っていた。そこで、承太郎は特に何をすることもなく、ただ水平線の先を眺めるのだ。
去年は、西浜だった。一昨年は、七里ケ浜。そこには花京院も居合わせた。波のうねりも、水面のギリギリを飛ぶ鴎も、彼の視界には入らない。確かに、生きていたあの時、両親に連れられて見た景色。だいぶ記憶は霞んでしまっていた。それと相反するように、目の前に立つ男はくっきりと、生きていた時の記憶の中心にいて。
その記憶に、こんな切なげな彼の顔は無くて。
(そんな表情、見たくないよ)
九回。去年まで毎年、そんな訴えを繰り返した。響く声も持たない自分が、情けなく思えた。

***

この幽霊院はストーカー紛いだと思ってください。割と間違っていないと踏んでます。「Unknown Color」に続き、花京院視点なのにはちょっと狙いがあります。なぜかは秘密です。
東北民ですが、未だに山形は行ったことがないのです。しかし西浜海水浴場を知っていたのと、調べたらそこが山形県遊佐(ゆざ)町だったので運命を感じて使わせていただきました。さくらんぼつながりで単純に山形を選んだだけだったとかそんなことないです、ないんです、はい。いつか行きたい。
後半、「二人」が訪れる海は地名出しません(ネタバレ)。8割は書き終えてますが、まだ更新には至りません。

2013/10/25


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