このままで。

Always been this way.

跡(ディオジョナ)

ディオジョナって全力でシリアスか全力でギャグじゃないと書けないです。

***

僕の居た場所は汚いと言われた。

けたたましい歓声はもう聞こえない。
代わりに、いつもと変わらない召使たちの声が館中にこだまする。
視線を上げると、大広間の階段を降りてくる父さんがいた。自然と姿勢を正す。
「ただいま」
「おかえり…こら。土をちゃんと落としておきなさい、ジョジョ」
腕に抱えたユニフォームは、勿論、叱られた僕のもの。
いくら気が滅入っているとはいえ、紳士としての振る舞いを忘れるなんて。
「…ごめんなさい」
「まあいい。ユニフォームを預けて早く休みなさい」
「わかりました」
傍にいた召使がユニフォームを取り上げる。
そそくさと去っていく姿は、さっき見た姿と似ている。

ひとりの時間。部屋の外から何も聞こえない。夕焼けは穏やかだ。
今日はおそらく、夕食の開始が遅い。
祝いの席に向けて準備は抜かりなく行われる。
僕の初めての試合、初めてのトライ。
おまけにディオは、初出場なのにチーム一の得点をあげた。
父さんも随分喜んでいるのだろう。
微かだが鼻をくすぐる香ばしい匂いがした。

『小汚い』
びくりと肩が震えた。
ふと蘇った罵声。
その言葉を聞いたのは、ほんの少し前、試合が終わった後だった。

□■□■

「金持ちを鼻に掛けてないか?今回の試合だって、本当に実力で選ばれたのかねえ。それに、あのトライはディオのおかげだろ?」
二人しかいない更衣室。
喧嘩腰の口調は、紛れもなく僕に向けられていた。
「お前なんか、小汚い。どうせ一人じゃなあんにも出来ないくせになあ。ディオだってそうなんだろ?」
僕の心は落ち着いていた。
試合に出られなかったこの人は、僕やディオが試合に出て結果を残したのが悔しかったのだろう。
「ディオは強いよ。彼は努力家だ。僕以上に」
「お前みてえに楽してるやつが努力家なんて笑えるぜ!その土汚れだって、お前自身が綺麗にしてるんじゃあねえんだろう!?」
口をつぐむ。代わりに握りしめた右手の拳が震えた。
負けを認めたくなかった。
「ほう」
更衣室の入り口から別の声がした。
「生憎、悔しさで薄汚い罵倒しか出来ないような奴に、ジョジョの努力を笑わないでもらいたいね」
「ディオ!」
「…!」
入り口を塞ぐように立つディオを押しのけ、彼は決まり悪そうに足早に逃げて行った。
立ち去っていく背中が見えなくなったのを確かめてから、ディオはこちらを向きなおした。
「全く。着替えが遅いから何があったかと思ったぞ、ジョジョ」
「はは、また人の気を悪くさせちゃったな」
精一杯笑ったつもりだった。
その顔をディオに向けると、彼は全く動かなくなった。
琥珀がかった目が見開いていた。
「…ディオ?」
はっとしたように、ディオはくるりと後ろを向き、扉を閉めた。
そしてまっすぐに僕の方へ歩み寄ると、彼は僕の手を取り囁いた。
「泣くんじゃあない」
伝う涙。気づいてから彼の手を振りほどき、拭っても、拭っても、止まらない。
嗚咽まで漏れ出して、なにもかも堰を切ったように崩れていく。
視界が歪みきった時、柔らかな手つきで背中をさすられた。
ゆっくりと力が抜けていく。
いつの間にか彼の腕に収まり、そのまま僕は泣き続けた。

「…ごめんよ」
「君が悪いんじゃあない。罵ったあいつのせいなんだからな」
顔を洗った僕に、ディオがタオルを手渡した。
そのときあることに気付いた僕は、申し訳なくておずおずと切り出した。
「えっと、ディオ、君の服、少し濡れてしまったね」
インナー姿の僕とは違い、更衣室の外で僕を待っていたディオは着替えを終えていた。
ワイシャツには、涙の跡。
顔を赤らめた僕の額を、ディオが指先で小突きながら笑う。
「別に汚れたわけじゃないのだし、少しすれば乾くだろう?」
そうなのだろうか。
紛れもなく、僕のせい。
僕の跡。
「なんなら、」
顎を持ち上げた手。
合ったその目が、手の温度が、僕を捉える。
「ぼくをもっと汚すかい?」
「それは…いやだ」
彼の瞳に映りこんだ僕は、怯えているようだった。
「君は汚くなんかないさ、ジョジョ」
ディオが近付く。
映りこんだ僕が大きくなる。
怖くて、目を閉じた。

□■□■

「ジョジョ!」
ノック音と、彼の声。
「夕食だぞ。何度呼んだと思っているんだ」
明かりを点けずにいた部屋から顔を出す。
「ああ…ごめん」
「さあ、早く行こう」
廊下の照明の明るさに目を細めている僕を気にせず、ディオは先に進んでいった。
彼は、さっきと違うワイシャツを着ていた。

***

回想シーンを無理矢理断絶させたので続きも書きたいです。

友人宅で即興で書いたものです。友人は1部キャラのイラスト描いてくれたんですが、ワンチェンから漂うラスボス臭が尋常じゃなかった。

2013/05/04


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