このままで。

Always been this way.

聞こえる(花承)

一巡企画その2。前回から4ヶ月経ってますがやりたかったので。
一応6部設定。死ネタ注意です。

***

全身に力が入らない。
目を閉じたまま、承太郎は次にどうするべきか考えていた。
体はふわり宙に浮いているように、ゆらり海の上を漂うように、流されていく。
風がひゅうと、横切る。

何故ここにいるのか、もともと何をしていたのか、すっかり忘れてしまっている。思い出しても、それはもうどうにもならないことのような気がする。
だからといって、ここで何かを待っても意味はないとも思う。
『次』を自分で探しに行こうと、瞼を開けた。

星一つない闇夜。
まわりは見覚えの無い海だった。
いや、海なのかすらわからないが。
少なくとも、生命の誕生を思い起こさせるような、神秘性を携えてはいない。
このままずるずると海底へと引き込まれ、そこで眠れと語りかけてくるようだった。

…ここは、目覚める場所ではない。
余計に承太郎は混乱する。
自分にある『次』が、終わりだと言うことなのか?

ざぶん、と耳元で波が唸った。
そしていつの間にか、浮いていたはずの自分が、水中から海面を見上げている。
苦しくはない。
もがくこともなく、しかしゆっくり、底へ底へと沈んでいく。
光もない、冷たい海。
もうどこへも行けないのだろう。
しんと静まり返った水の中、今度はもう目覚めないのかもしれないと思いながら、全てを放棄しようとした。

『ほら、あそこに星がある』

直接頭に響いた言葉は、もう二度と聞けないと思っていた、彼の声に似ていた気がした。
水面のもっと先。
真っ黒な空のキャンバスに、さっきまでは見えなかった輝きがあった。
彼が道を指し示してくれたような気がして、承太郎は光の方へ手を伸ばした。
刹那、強い光が辺りを包んだ。

□■□■

真っ白な空間だった。
背後からした足音に、反射的に振り向く。
髪型も服装も、あのときのままの彼がいる。
腹の穴も、ぽっかりと、そのままだ。

「本当に…承太郎なんだね」
「ああ、久しぶりだな」
「…僕と、いくかい?」

花京院が手を差し伸べる。
承太郎は徐に近付き、その手を取った。
握った手に、確かな懐かしい感触があった。
それは花京院にも伝わったようで、少し目を見開いていた。
彼は驚きと、嬉しさと、どこか悲しさを持って、微笑みかけた。

「…わかった」

花京院は、強くその手を握り返した。
やりきれない表情ではあったが、いとおしそうに向ける瞳が、今はこんなにも近い。

ああ、ずっと探していたものはこれだったのか。

その手の感触だけを信じて、花京院とともに承太郎は歩みを進めた。
どこか遠くから、扉の閉まる音が聞こえた。

***

承太郎が死ぬ時に、真っ先に現れるのは花京院なんだろうな。
本来生命の出発点の海が、6部としては終点っぽく感じられてそれもありかなと思いました。

2012/08/03


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