雨模様 | ナノ
第45話

キルアが来てくれなかったら今頃どうなっていたのだろう。私にはわからないことだらけで想像すらもできなかったけどただなんとなく怖くていつまで経っても震えが治らない。あの人と今後も会わなければならないと思うと今にも吐きそうだった。

「キルア」

「なんだよ」

「…ほんとに、来てくれて…ありがと…」

しつこいけど言わずにはいられなかった。友達だったら多分こうやって何度もお礼を言うのだっておかしいんだろう。でもキルアには何度感謝の言葉を伝えても足りないんだ。

「………」

キルアは私のことをじっと見たまま何も言わなかったがやがて両手を大きく広げて微笑んだ。

「ハル、こっち来い」

「…?」

言われるがままにキルアに近づいていく。どの程度まで距離を詰めていいかわからず足を止めると「もう一歩」と言われ更に近づいた。

「ん、よし」

「っ、わ…」

キルアは一定の距離を取っていた私を引き寄せてそのまま腕の中に導いた。自分の腕や身体の遣り場がわからずに戸惑っていると「怖いか?」と聞かれて慌てて首を横に振る。たしかに距離は近いけど、キルアの側が怖いわけない。

「すごく、安心する」

「…そーかよ」

そうか、今義父と同じことをされているのか。そうとは思えないくらい心地良くて目を閉じて首元に顔を埋めた。

「お前さ、なんで関係断たねーの」

「家は…最後に帰る場所…だから…」

私には肉親がいないからあの人たちがいなくなったら完全に独りになってしまう。それは…少しだけ寂しかった。

それにお金を稼ぐという目的がなかったら私はこの後なんのために生きればいいのかわからない。あの場所がなくなったら私には何も残らないような気さえしてしまう。

「っ、お前なあ!」

つっかえながらもキルアにそう伝えると、肩を掴まれ向き合う形にされた。

「やっぱもうあの家と関わんな!」

「っ、だから、そしたら私…」

「オレの側にいると安心すんだろ。だったら、ずっといればいいじゃん」

「え?」

キルアの顔は真っ赤になっていたけどとても真剣だった。何もない私にキルアが居場所をくれようとしている。しかもそれは私にとって一番心地がいい場所で、なんかもう、キルアって本当に神様みたいだ。

「なあ、知ってた?オレ、お前のことすげー気に入ってんの。独りになんてさせねーよ」

「…っ、ありがと…キルア大好き…」

「〜〜!あーくそ、オレもだよ」

溢れてくるこの感情を表すには、多分この言葉が一番適切。だから迷わずそう伝えるとキルアの顔がさらに赤く染まった。

「とにかく!さっさとゴンのとこ戻って色んなとこ行こうな!」

「うん」

「オレ箱入りだったから、行きたいとこもやりたいこともけっこーあんだよね。お前全部付き合えよ!」

「……う、ん」

お金を稼ぐ以外に何もなかった私の未来をキルアがどんどん埋めてくれる。義父とはもう関係を絶ってもいいのかもしれない。初めてそう思えた。今までのお礼にお金だけ玄関に置いてそれで完全に終わりにしよう。

「ゴンの故郷とかも行ってみたいよなーどんな環境で育てばああいう風になるのかすげー気になる」

「キルア…」

「ん?…ん?!」

感謝を伝えようと名前を呼べば、その声はなぜか震えていた。キルアの驚く顔を見て、自分が泣いていることに気がつく。

「え、おま、泣い」

「キルア、…私、キルアに会えてほんと、よかった…ありがと…う…っ」

この距離がもどかしくて、今度は私から背中に腕を回す。キルアは少しの間のあと「オレも」と呟き、同じように背中に腕を回した。

「…オレも、お前に会えてよかった。ありがとな、ハル」

泣きたくなんかなかったけどどうしても堪え切れなくて、声を上げて泣いてしまった。




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