雨模様 | ナノ
第39話
執事室に案内された私たちはそこで客人として迎えられた。今キルアがこっちに向かって来ているらしい。やっとキルアに会える。それだけで心が弾んだ。
「さて…ただ待つのは退屈で長く感じるもの。ゲームでもして時間を潰しませんか?」
執事の一人がそう提案する。今からこの執事がどちらの手にコインを隠したのか当てるゲームが始まるらしい。なんとなく嫌な予感がしたけれど断る術は持っていないので参加することになった。
最初は和やかで簡単なゲームだったのだがある時を境に難易度がぐんとあがる。
「私は…キルア様を生まれた時から知っている。僭越ながら親にも似た感情を抱いている…。正直なところキルア様を奪おうとしているお前らが憎い」
奪うつもりなんてないけれどこの人にとって、キルアを外の世界に連れて行くことは自分からキルアを奪うことに繋がるのだろうか。
執事は今から始まるのは命を賭けたゲームだと告げた。ようやくキルアに会えるというのにそんな危険なゲームやりたくないが使用人の女の子を人質に取られてしまって参加を拒否することも出来なかった。
渋々ゲームに参加すると執事は今までとは比べ物にならないくらいのスピードでどちらかの手にコインを隠した。
「どっちだ?モタモタすんじゃねー。三秒以内に答えろ」
「……」
「おい、そいつの首かっ切れ」
私たちには考える時間すらも与えられないようだ。レオリオが慌てて右手と答える。続いてゴンとクラピカと私が左手と答えてレオリオだけがアウトになった。
次のゲーム。動きが追えないわけではないのだけれどサングラスの黒とスーツの黒が同化してしまって上手く見えない。微かに見えた気がして左手と答えたら運良く正解だった。
「これで残りは二人…いくぜ」
「ちょっと待って!」
「なんだ?ただの時間稼ぎならぶっ殺すぞ」
「レオリオ。ナイフ貸して」
ゴンはレオリオから受け取ったナイフで腫れている自身の左目の血を抜いた。たしかにあんなに腫れた目じゃ見えるものも見えないだろう。
「ハルはそれでいいの?」
「っ、え…?」
「それ掛けてると視界悪いでしょ?それじゃこの人の動き見切れないと思うよ」
そうだ。ゴンの言う通りサングラスを外せばいいだけの話なんだ。簡単なことなのに酷く緊張するのは今までこれに頼りきっていたから。でもそんなこと気にしてる場合じゃない。このゲームには皆の命が掛かっているんだから。
そっとサングラスを外してポケットに突っ込んだ。明かりが眩しくて思わず目をこする。目を開くとゴンが力強く頷いてくれた。うん、よく見える。
「どっちだ?」
「「左手!」」
「やるな。じゃ、こいつはどうだ」
三人の手を行き来するコインを目で追っていく。サングラスがないだけで執事たちの動きをしっかり追うことができる。コインが私たちの横を通り抜けて後ろの執事に渡ったのもはっきり見えた。
「さあ誰が持ってる?」
「「後ろの人」」
「すばらしい!」
全問正解した途端に今まで怖かった執事がにっこり笑って拍手をする。
「ゴン!ハル!」
「っ、」
懐かしい声がして振り返るとそこにはキルアがいた。別れた頃の暗い雰囲気はなくなっていて出会った頃のように飄々としている。会えなかった間にキルアも色んなことを乗り越えて更に強くなったのかもしれない。私が守る、なんて思っていたけどそんな必要もなさそうだった。
「あとえーと…クラピカ!リオレオ!」
「レオリオ!」
久々のキルアはキラキラ眩しくて直視できそうになかった。ポケットからサングラスを取り出して、再び掛ける。うん、これなら大丈夫そう。
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