雨模様 | ナノ
第20話
「…と…いうわけで恩は、試験中に返さ…なきゃで、…か、返しきれるかわからな」
「あっったま来た!」
ハルの言葉を遮ってそう叫ぶ。ハルの義理の両親にも他の家族にも全てを受け入れるだけのハルにも腹が立った。
「そんな奴らの言うこと素直に聞く必要ねーよ!」
「で、でも、」
「大体ハルが受かったかどうかなんてそいつらにはわかんねーだろ。落ちたフリして家帰んなきゃいいじゃん」
ハルの義父はこいつが試験に受かるなんてこれっぽっちも思っていないだろう。ただ理由をつけて家から追い出したいだけだ。自分に関心のない家族からの逃げ道なんて山ほどある。
「お前さ、そいつらのために一生一人で働き続けるだけの人生でいいわけ?やりたいこととかあるだろ」
「!、…それ以外の道なんて…考えたこと…ない…」
ハルはそれきり俯いて黙り込んでしまった。どうやらこいつは本当に一度も自分の置かれる環境に不満を持ったことがないらしい。それどころか育ててくれたことに恩義を感じている。
そういえば最初もオッサンから毒入りジュースをもらって飲もうとしてたっけ。疑っているのに結局は「良い人かもしれない」って思っちゃうんだ。いくらなんでも素直すぎだろ…目を離した隙に死んでそうで心配だ。
「し、試験の…後のこと」
俯いたままハルが発した声は気を抜くと聞き逃してしまいそうなくらい小さかった。なんとか拾って「うん」と相槌をうつ。
「…私が選んで、いい…のかな…」
「良いに決まってんだろ!」
「……う、ん!キルア、…ありがと」
口角を上げて微笑むハルを見て心臓が大きく脈打つ。あーーくそ。ちょっと笑っただけでこれかよ。
「まずは四次試験合格しなきゃだけどな」
「…頑張る。キルア、…またあとで会おう」
「おー」
あのハゲとのことを色々聞き出すつもりだったけどすっかりタイミングを見失ってしまった。ま、それよりもっと大事な話を聞けたから良いけど。
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