雨模様 | ナノ
第9話

長いトンネルを抜けると目の前には湿原が広がっていた。湿原を抜けた先が二次試験の会場らしい。再び歩き出した(といってもすごく早いんだけど)試験官を私たちは一斉に追いかけ始めた。なるべく前に行った方が良いというキルアの意見を尊重して引き続き先頭を走り試験官を見失わないようにする。

「あ、の…キルア…なんで、前…」

「ヒソカから離れた方がいい。あいつ殺しをしたくてウズウズしてるから。霧に乗じてかなり殺るぜ」

さっき私たちを騙そうとしたサルを躊躇なく殺した男の名前がヒソカというらしい。たしかにあの人は平気で殺しができるみたいだけど、無差別的に殺したいかどうかはまた別なんじゃ…?そう思っているとキルアが私の思考を見透かしたように理由を教えてくれた。

「オレも同類だから。臭いでわかるのさ」

ヒソカと同類…ということはキルアも無差別的に…しかも快楽目的で人を殺したいって思ってるの…?まだ少ししか話していないけどそんな風には見えなかったから驚いた。ゴンも同じように思ったみたいでキルアに直接それを告げていた。キルアはそれは自分がネコを被っているからだと答える。

何事もないまましばらく走っていると後ろの方から悲鳴が聞こえてきた。その中に仲間の声が混じっていたらしい。ゴンは危険を承知で仲間を助けに後ろに戻っていった。キルアは行かなくていいのかな?そう思って視線を送ると「オレ?行かねーよ」と呆れたように笑っていた。

「お前さ」

キルアと色々話してみたかったけど会話なんて思いつかなくて無言で走り続けていたのだがキルアに声をかけられ緊張しながら顔を向けた。

「オレといるの怖い?」

「…?な、んで…」

驚いて足を止めると、キルアもそれに倣って足を止めた。

「お前全然喋んねーだもん。べつに無理に一緒に居なくてもいいよ。オレもヒソカと同類だし、離れてた方がいいかもな」

そう言って自嘲気味に笑うキルア。知らないうちにキルアに対して嫌な態度をとってしまっていたのだろうか。喋らなかったことを拒絶と捉えられてしまった…?まさかキルアにそんな風に思われていたなんて。咄嗟のことで声が出なかったから、慌てて何度も首を横に振った。

「……ちが、…逆…」

「逆?」

「キルアと…一緒に走れて、…うれしいって、おもってた…。一緒にいると、あ…安心…?する…し…その…ええと…」

どうして上手く伝えられないんだろう。もっと話したいし、キルアの話もたくさん聞きたい。そう言えばいいだけなのに、口を開いて言葉を紡ごうとすると緊張して遠回りばかりしてしまう。

「な、かよく…なりたい…」

やっとの思いでそう伝えるとキルアは目を何度か瞬かせ、やがて居心地悪そうにふいっと逸らした。

「…んなこと初めて言われた」

「一緒に…いても、いい…ですか」

「ぶはっ、なんで敬語?」

絞り出すようにそう言うと何が面白いのかケラケラと笑い出すキルア。

「早く走ろうぜ」

「!、…うん」

一人でいることが当たり前だった私にとって、誰かと一緒にいたいと思えて、それを許されたのは奇跡に近いことだった。嬉しくて自然と走るペースが上がっていく。「まだまだ余裕かよ」と笑われてしまったが、それすらも嬉しかった。





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