日常 | ナノ
94日目(水曜日)

今日は瀬名さんが急に来られなくなってしまったので日付が変わる頃まで働いていた。入れ替わりで来た中島くんが「瀬名〜〜!あいつ絶対女絡みだ!」と怒っていてその時に夜勤専従の名前が瀬名ということを知った。中島くんは基本的に人のことを嫌うことはないみたいなんだけど、瀬名さんとはどうも馬が合わないらしい。

あ、そう。名前といえば眼帯のお兄さん。機会があったから聞いてみたんだけど下の名前しか教えてくれなかった。今日もすごく良い人だったからもうちょっと細かく書こう。

23時ぐらいに来店してきたお兄さんはすでに半日以上働き虚無になっている私の姿を見て同情したのかお茶と肉まんを差し入れてくれた。いい加減この人に物を貰いすぎているので拒否したのだけど「客に見せる顔してねぇぜ」と言われて返す言葉もなかった。しかも「そろそろ上がりか?」と聞かれたので特に何も考えず「日付変わるくらいまでです」と答えたら気を遣わせてしまったのか終わる頃にまたお店に来てくれたのだ。神?

0:30くらいに店を出ると「残業か?」と声をかけられてびっくりして持っていた荷物を落としてしまった。「あっ、卵!」と深夜に相応しくない大声を上げて中身を確認したら割れていなかった。「奇跡だ」と呟くと同じく中身を確認していたお兄さんは「日頃の行いだろうよ」と笑っていた。うーん、どこを切り取ってもいい人。

さらに家まで送ってくれるという親切が高級着物を着て歩いているようなお兄さん。流石に申し訳ないので「近いんで大丈夫です」と歩き始めたのだが、後ろから聞こえてきた「そういやこのぐらいの時間だったか、お前が斬られそうになってたの」という一言で急に怖くなり「…この御恩はいつか必ず」と深々と頭を下げた。下げた頭にお兄さんの手が乗って、そのままぐしゃりとかき混ぜられてなんだかもう色々と恥ずかしくて埋まりたかった。

で、名前。家に着く直前で名前を聞きたかったことを思い出したので先に名乗ると「知ってる」と返ってきて驚いた。その場では(あ、名札ね)と納得したんだけどよく考えれば名札に下の名前までは書いてないな。なんで知ってんだ?まあいいや。そのあとお兄さんの名前を尋ね、ついでに「しんすけさん説が濃厚です」と加えると「調べたのか?」と珍しく驚いたような顔をしていた。経緯を話すと「また子に会ったのか」と納得したようだった。「金髪美女の名前ですか?会ったというか全部盗み聞きですよ」という何の面白みもない返しでも可笑しそうに笑うお兄さん。ツボ、浅いなあ。

名前だけ知っていても困るので苗字を聞くと「さあな」とすっとぼけられた。はあ?という顔をする私を見て小さく笑うと「名前だけ知ってればいい。じゃあな那津」と返事も待たずに去っていってしまった。名字はバレたらまずいのだろうか。それなら聞くわけにはいかない。それでもどうしても聞きたいことがあってその背を追いかけ「あの!名前の漢字教えてください!」と紙とペンを差し出したら今日一で笑っていた。どう考えても奇行だけど日記に必要だから仕方ない。「晋助」と書くらしい。達筆だった。

うーん、名前しか教えてもらえなかったから今後は名前で呼ぶしかないんだけどあんな高貴な方を名前で呼んでバチ当たらないかな。最低限にしておいた方が良さそうだ。今日はいろんな人の名前が知れた日だったな。いっぱい書きすぎて疲れた。寝よう。




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