日常 | ナノ
91日目(土曜日)

今日は王子とりんご狩りに行った。とりあえず日記に書いておこう。

いつものように働いていたら昼過ぎに来店した王子に「一狩り行かない?」と声をかけられたのが事の始まりだった。今流行りのゲームかと思って「持っていません」と答えると「転職したら?」と返ってきて相変わらず全く噛み合わない会話に頭を抱えたくなる。気を取り直して狩りの意味を尋ねると王子は持っていたチラシをこちらに差し出した。『りんご狩り!食べ放題!』と大きく書かれたその紙を見て「狩り」の意味を間違っていたのはこちらだったことを知る。掘り返さなかったけど持っていませんって参加費すら払えない生活レベルだと思われたんだろうか……

結局退勤まで待つのは嫌だというわがまま放題の王子に折れて昼休憩の時間を使って行ったんだけど、農家の人に「りんごを鋏で摘んでください」って言われたのに開幕で木ごと折られたときには思わず天を仰いだ。(もちろん、王子に弁償してもらった)

「下に落ちたもの全部食べていいんでしょ?」「違います。自分の手で摘んだものだけ食べられるんです」「こうした方が早いのに?」「効率を求める遊びじゃないので」と説明していくと納得はしないけど理解はしてくれたみたいで渋々といった表情で鋏を持ってくれた。そのあと摘むために手で抑えたりんごを粉々に砕いたりもしていたけど、もう私はつっこまない。ただ、ここにあるりんごを食らい尽くす勢いで食べていたのでそれだけは頃合いを見てやめていただいた。

帰り際に「りんご狩りって制約だらけでつまらないね」と不満そうにしていたけどその制約、普通の人間にはあってないようなものなんだよなぁ。この王子が色々規格外すぎるだけで。ていうかなんでわざわざ地球に来てりんご狩り?と思って理由を尋ねたらたまたまお腹が空いているときに食べ放題と書かれたチラシをもらったからという浅い理由しか出てこなかった。

私に声をかけたのはいつもの従者にコンビニ禁止令を敷かれたのがきっかけらしい。「あぶとが地球に来るたびに「コンビニには行くな」って言うんだ。そうしつこく言われると逆に行きたくなるし関わりたくもなるよね」と笑っていて、日頃の従者の気苦労を垣間見て私まで胃が痛くなってきた。やっぱり王子にコンビニとか行って欲しくないのかな。良いもの食べてほしいのかな。

はぁ…疲れた。王子、いつも傘さしてるし肌が出ない格好してるから日光苦手なんだよね?外で行動して大丈夫だったのかな。何か冷やすものでも渡しておけば良かったかもしれない。もう遅いけど。さ、そろそろ寝るか。
 



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