ごみ箱 | ナノ
いつからだろう。バスケも試合もつまらないと感じるようになったのは。余りの強さに俺たちと本気でやりあうチームなんて存在しなくなったし、埋めようもない実力差に絶望した相手の顔を見ることにももう慣れてしまった。

今日の相手(蒼林)はまだ粘った方だけど、只でさえ実力差があるのに相手はキャプテン不在。50点差がついたところで、いつものように相手がやる気をなくした。応援席もすっかり静かになってしまっている。まるで、お通夜だ。そんなことを考えていたら相手がタイムアウトをとった。

「夏木いいい!」

「っ、渚!?」

ベンチで汗を拭っていると、静まり返っていた観覧席で誰かが叫んだ。吃驚してそちらを見ればポニーテールの女の子が立ち上がって蒼林ベンチをきっと睨んでいた。続いて蒼林ベンチを見ると負傷中のキャプテンが信じられないといった風に目を見開いている。彼の名がきっと夏木というのだろう。

「ちゃんと試合しろ!だらだらすんな!見ててイライラする!」

女の子は息を大きく吸い込むと、大声でそう言った。その声は体育館中に響き渡る。すごい肺活量だ。

「仕方ねーだろ!お前にはわかんねーだろうけどこんだけ点差つけられるとやる気維持すんのも大変なんだよ!」

「はあ!?もしかしたら今から敵が全員腹痛で調子悪くなるかもしれないじゃん!」

「ねーよ!」

「わかんないじゃん!そのときに備えて点差は最低限に抑えとかないと!がんばれ夏木!」

最初は何言ってるんだろうと思っていたが、いつの間にか彼女から目が離せなくなっていた。彼女の言っていることはめちゃくちゃだけど、彼女はそれを本気で言っている。まだ蒼林の勝ちを諦めていない。

彼女が口を閉じたとき、体育館は恐ろしいくらい静まっていた。

「つーかさあ…」

次に口を開いたのは蒼林のキャプテン。呆れているのかその声はさっきよりも低く、そして少し震えていた。

「お前マネージャーのくせになんでんなとこから高みの見物してんだよ!!!」

「あ、それはごめん!!寝坊した!!」

「とっとと降りてこいバカ!」

なんだこのオチ。多分体育館にいた誰もがそう思っただろう。結局彼女が蒼林ベンチに入ったのと同時にタイムアウトが終わってしまったが、選手の目には光が戻っていた。

試合は最終的に蒼林の大敗で終わったが、久しぶり最後まで全力の相手と戦うことが出来た気がする。

「…面白い人でしたね」

更衣室で着替えていたら、隣にいた黒子っちがぼそりと呟いた。

「なんかちょっと黒子っちに似てたっすよね」

「そうですか?」

「黒子っちも前に幾ら100点差がついてても最後の1秒に相手ベンチに隕石が落ちるかもとか言ってたし」

そう言ってニッと笑えば黒子っちは「そういえばそうですね」と言って小さく笑った。彼女にもう一度会ってみたかったけどわかっているのは中学校だけだし(しかもかなり遠い)それは難しいだろう。

月日が経って、高校生になっても彼女の存在はなんとなく心に残っていた。彼女は結局どこの高校に入ったんだろうか。

「やだ!絶対やだ!」

「やだじゃねーよ!マネージャーやるなら謝っといた方が良いって…!」

入学式の翌日。自席でぼーっと頬杖をついていると、廊下の方が騒がしくなった。ちらりと様子を伺って…信じられない光景にもう一度そちらを見た。

「あんなのいちいち覚えてるわけないじゃん!謝って何のこと?とか言われたらどうすんの…」

「ばっか、あんなん忘れるやついねーよ!あの時どんだけ目立ったと思ってんだよ」

「嫌だあああっ」

大きな声にきちっと結ばれたポニーテールを見て確信した。あの時の子だ。隣にいるのは蒼林のキャプテンだし間違いない。

また、会えた。ニヤけそうになるのを何とか堪えて俺は彼女の元に向かった。

奇跡の再会
(ちょっと良いっすか)
(…えと…どちら様…)
((顔忘れられてる!?))


黒子のバスケが好きです。推しは黄瀬と緑間。あと笠松と桜井。次の拍手御礼文に黒子関係の夢を書こうと思って書いた結果がこれです('';)次の更新日までになんとかまともなものを書けるようにします!



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