ごみ箱 | ナノ
唐突だが、私には嵐の波動が流れている。もっと正確に言うと、嵐の波動しか流れていない。大抵の人間には複数の波動が流れているというが、どうやら私は例外のようだ。今も霧のリングに炎を灯すために頑張っているのだが、何の反応もない。

「あ゙ー!やっぱりだめだ!」

「何してるんですかー?」

間延びした声に振り返ればそこにいたのは同期のカエル。幹部の一員だが、最初の頃の癖が抜けず今もまだタメ口で話している。

「フラン!ちょっと相談があるんだけど聞いてくんない」

「…良いですよー」

「私には嵐の波動が流れてるんだけどそんなもの要らないんだよ。だからフランの霧の波動と交換出来たらなって思ってるんだけど…どうすれば出来ると思う?」

「無理に決まってんだろ」

「厳しいっ」

普段が敬語なだけに普通の言葉が必要以上に胸に刺さる。

「一体何でこんなしょうもないこと考え始めたんですかー?」

「しょうもないって言うな!…だって自称王子と合わないんだもん!なにあいつ、殺していいかな」

「おっ、気が合いますねー。殺るならミーも手伝いますよー」

「まじで?!じゃあロン毛隊長に許可貰って来るよ!待っててー!」

「朝から元気ですねー」

フランはムカつくときはムカつくけど、基本的に気が合う。それに幹部なだけあって相当強い。フランが味方にいるなら自称王子暗殺も夢ではないかもしれない。

そのためには頭の固いスクアーロ隊長から暗殺の許可を取らなければならない。これが中々大変なのだ。

「というわけでベル先輩を殺す許可を下さいな」

「ゔお゙ぉい!ダメに決まってんだろぉ!」

ほら、やっぱり。頭ごなしに怒鳴られて凹む…ような私ではない。強気は私の唯一の長所だ。

「なんでですか!?あんなめちゃくちゃな人の下でなんて働けません!もう殺す以外にどうすれば良いかわからないんです!」

「我慢すれば済む話だろーがぁ!」

「いやだいやだいやだ!大体どうして私の波動は嵐なんですか?!もっと違う波動だったらこんな思いしなくて済んだのに…」

「知るかぁ!そんなに嫌だったらヴァリアーやめろぉ!」

「私だってこんな危険な職業嫌です!でもまともなところだと穏やかさについていけなくて。ムカつくやつ殴っただけで警察行きだし…」

「……」

「その点ヴァリアーなら嫌な先輩に殺意抱いても強いから殺せないじゃないですか!まさに天職ですよね」

学生のとき、たった一度だけだが本当にムカついた先輩を半殺しにしてしまったことがある。当然だがめちゃくちゃ怒られて警察沙汰になった。そのときに悟ったのだ。私はまともな企業には就職出来ないなと。

「お前に流れてるのが嵐の波動で良かったぜ…」

「なんてこと言うんですか!そんなこと言わずに私をスクアーロ隊長の部下にして下さい!」

「断る!」

「即答かよ!」

散々な扱いを受けているが、ヴァリアーに入ったときは心底安心した。私くらい血の気の多い人間が他にもいたんだなって。

「大体てめーには嵐の波動しか流れてねぇだろーが!大人しくベルの下で働け!」

「…ただ、どんだけ頭固いんだよこのカス鮫は」

「ゔお゙ぉぉい!聞こえてんぞぉ!」

そう。つまり私は血の気が多いのだ。これだけ散々言われると、ついつい本性が表れてしまう。

「説得失敗だったよ」

「大丈夫ですよー最初から期待してませんでしたしー」

「それもそれで傷つくんだけど」

カス鮫と言ったのが悪かったのか、結局最後まで自称王子を殺す許可は得られなかった。

「あーあ…もう諦めてベル先輩の下で頑張るしかないのかな」

「自分の不運を嘆くしかないですねー。お似合いだと思いますよー。渚と堕王子ー」

「ぎゃあああ、恐ろしいこと言わないでー!」

フランの言葉を聞いて思いきり自分の耳を塞いだ。お似合い?有り得ない!……絶対に有り得ない!

「…あ、」

「?…わっ」

フランが私の後ろを見て小さく声を上げたので、反射的に振り返ると何かが私を目掛けて飛んで来ていた。

「…っ、」

頬を何かが掠め、チクっとした痛みが走る。痛む頬に手を触れると何やら赤いものが…って血ー!

こんなことをする人間は、一人しか考えられない。まず間違いなく私の上司である自称王子だ。

「避けんなよ、バカ渚」

「避けなかったら死んでますよね!?というかベル先輩!こういう危ないことはフランにやって下さい!」

「うわー、最悪だーこの人」

「しししっ、やったに決まってんだろ。避けられたけどな」

「えっ、うそ」

「当たり前じゃないですかー、渚にもちゃんと忠告してあげましたよー」

「気付かなかった…」

もしかしてさっきの「あ、」っていうのが忠告に当たるのだろうか。だとしたらわかりにくいにも程がある。

「てゆーかお前らさっきから何話してんの?」

「えっ、いや…ただの世間話ですよ。ねーフラン」

まさかベル先輩の暗殺計画を立てていたなんて言えるわけがない。不自然なくらいにっこり笑って、フランにも言わないよう目で訴えた。

「そーですよー」

どうやらフランにも伝わったらしい。心の中でホッと一息つく。しかし、ここで安心した私がバカだった。

「決してベル先輩の暗殺計画なんて立ててな……あっやべっ、口が滑った」

「フランー!?」

何言ってんだこのカエルはー!慌てたように口を覆っているけど完全に手遅れだからな。

背後からドス黒いオーラを感じて振り返ると、ベル先輩が妖しい笑みを浮かべていた。

「……へぇ」

やばい。これはやばい。直感でわかる。ベル先輩は今完全にキレている。

思わず後ずさったが、何か固いものに当たってこれ以上下がれない。こっそり背後を見れば、固いものの正体はフランの被り物だった。

「お前まさか私を盾に…」

「…どうかご無事でー」

「ちょっ、お前ふざけんな!」

「王子放置していちゃつくとか良い度胸してんじゃん」

「え…な…なに振りかぶって…ぎゃあああああ!」

ヴァリアーが私にとって天職なのはわかっている。だけどデンジャラス過ぎる毎日に、本気で転職を考える今日この頃だ。

暗殺計画
(生きてますー?)
(…奇跡的に生きてるよ)
(相変わらずしぶといですねー)


テンションに任せて書いたのでこっちに更新。きっと彼女はベルのお気に入りのはず。だから殺されそうになってもなんだかんだ生き延びてます。ところでヴァリアーに女隊員っているんでしょうかね?



×
- ナノ -