ごみ箱 | ナノ
心臓が、鳴り止まない。いや鳴り止んだら死んじゃうから鳴り止まれても困るんだけど。目眩動悸吐き気。先程からずっと風邪に似た症状に悩まされている。先生の話も全く耳に入って来ない。

俺は、今ある選択を迫られている。選択肢は無限にあるといっても過言ではない。経済的な問題や俺自身の技量を考えれば自ずと絞られてくるけれど、それでも10や20では済まない。

「どうした?佐原。顔色悪いけど」

「ミツオ君…、俺今すげー悩んでんだよ…。その時が刻一刻と近付いて来てるのに、解決策が何も思い浮かばないんだ。どうしよう…。いっそこのまま死んだ方がいいんじゃ」

「死を考えるほど重大な悩みなの!?」

ミツオ君は真っ青になって、真剣に話を聞く体勢に入った。ミツオ君…お前本当に良いやつだな。お前は俺と波長が合うやつNo.2だよ。俺は早速ミツオ君に悩みを打ち明けた。

「ああ…、それは死活問題だな」

「俺…このこと朝からずっと悩んでて、でも全然決められないんだ。自分のことなのに…情けないな、俺」

「佐原…。気持ちわかるぜ。俺もいきなりそんなこと言われたら、絶対悩むって」

「…ミツオ君ならわかってくれると思ってた。ありがとう。聞いて貰えただけで、気持ちが晴れたよ」

そう言って微笑むとミツオ君も少し申し訳なさそうに微笑んだ。そう、これは俺の問題。どう頑張ったってミツオ君には解決出来ないのである。

俺が何やら重大な悩みを抱えているということを聞き付けたヨシタケとヒデノリが、俺をカラオケに誘ってくれたが丁重にお断りしておいた。有り難いが、そんなことをしている場合ではないのだ。

「そうだ佐原。良い話がある」

「…なんだよ、ヒデノリ」

「今うちの生徒会が悩み相談を請け負っているらしい。どんなことでもたちまち解決してくれるって巷じゃ結構評判だぞ」

「生徒会…か」

唐沢とモトハルの顔が頭に浮かぶ。確かにあいつらならどんな悩みでも解決してくれるかもしれない。

「…行ってみるよ。気遣ってくれてありがとな」

「いや、いいんだ」

「悩み、解決すると良いな」

「…ああ」

俺は二人に小さく微笑んでから、生徒会室に直行した。この扉の向こうに俺を助けてくれるやつがいるかもしれない。そう思ったら、それだけで少し心が軽くなった。

「…失礼します」

「佐原…?」

「随分沈んでるな。どうした?」

「話…聞いてくれるか?」

「(ここは相談室じゃないんだが…言い出せる空気じゃないな)…ああ。話してくれ」

中にいたのは唐沢とモトハル。ただならぬ俺の顔を見て、二人は居住まいを正した。

「ありがとな。なるべく簡潔に済ますよ。俺5人家族でいつも家に帰ると誰かしらいるんだけど今日は誰も居ないんだ。俺だけ仲間外れにして皆で旅行行っちゃったから。…それでここからが本題なんだけど」

俺は唐沢が淹れてくれた紅茶を飲んでから、ゆっくり口を開いた。

「今日の夕飯どうすればいいかな?」

「「知らねーよ」」

「そうか…」

…やっぱりこいつらにも俺の悩みを解決することは出来なかった。いや…聞いてくれただけでも十分有り難いことだよな。

相談室(生徒会)を後にして、帰路をとぼとぼ歩いていく。すると目の前から見慣れた人物がやって来た。

「おーい佐原」

「タダクニ…」

「今帰りか?」

「うん。タダクニは?」

「俺も帰り。今日さー、バイトかと思って急いでバイト先行ったら休みだったんだよ」

「あー…、そりゃ災難だったな。ドンマイ」

タダクニが「ヤスノリも奈古さんも教えてくれれば良いのに」と更に愚痴を溢すから、俺はそれになんとなく相槌を打った。悪いなタダクニ…。今日は話を広げる元気がないんだ。

「なんか腹減ったな。飯でも食ってくか」

「!!!」

タダクニがぽつりと呟いた言葉に俺はかなりの衝撃を受けた。

「お前今日時間ある?」

「あるある!行こーぜ飯!」

「おお…やけにぐいぐい来んな。駅前にラーメン屋が出来たらしいからそこ行くか」

「ああ、そうだな!」

タダクニ…やっぱりお前は俺と波長が合うやつNo.1だよ。相談もしていないのに悩みを解決してくれるなんて思ってもみなかった。さっすがタダクニ!ありがとう!

死活問題
(いただきまーす)
(ええ!?そんな胡椒掛けんの!?)
(胡椒好きなんだよ俺は)


彼はこの日の授業は一睡もしていません。くだらないことに本気で悩むことってありますよね。ラーメン屋はアニメを見ていた方ならなんとなくわかると思いますが、生徒会長が言っていたあの店です。ごみ箱なのでクオリティには目を瞑ってくださいませ(笑)



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