ごみ箱 | ナノ
またやってしまった。両手に抱えた戦利品を見てもう何度目かわからない溜め息を溢した。
私は陽泉高校に通う帰宅部の女子高生。特技はUFOキャッチャーだ。その腕前はプロ顔負けだと自負している。…UFOキャッチャー界にプロがあるかどうかは置いといて。
「おはよう渚…って、どしたのその袋」
「昨日の帰りに取ってきた。どうせ食べきんないから好きなだけ持ってっていーよ」
「さっすが…。じゃあ遠慮なく」
昨日の戦利品はまいう棒の詰め合わせ2つ。まいう棒は大好きだけど帰宅部女子にこの量はキツい。こんなの食べたら絶対全部肉になる。それは不味い。これ以上太るのは非常に不味い。
「………」
「………」
「(うわあなんかこっち見てるすっごい見てる)」
なんとなく視線を感じて隣を向くと紫原君が目をキラキラさせながらまいう棒の入った袋をじっと眺めていた。
「…いる?」
「くれんのー?」
そう尋ねると紫原君は更に目を輝かせた。いつも気だるげで授業中も寝てばかりいるからてっきり部活以外には何の興味も無い人なのかと思っていたけどそういうわけじゃないみたいだ。
「どうぞ」
「ありがとー」
袋の中からテキトーに掴んで渡すと、彼の表情がいっそう柔らかくなった。喜んでくれているなら取ってきた甲斐があった。
「美味しい?」
「うん、俺これ一番好きだし」
「へえ…。それなら良かった」
「つかさぁ、こんないっぱいどうしたの?食べらんないのに買っちゃったの?」
「いやいやそんなバカじゃないよ私。UFOキャッチャーで取ったんだよ」
「UFO…キャッチャー…」
「そう。得意なんだ」
そう言ってニっと笑う。これだけは胸を張って言える。若干ドヤ顔になってしまったかもしれないが気にしない。
「じゃあさじゃあさー」
「うん」
「そこのゲーセンにまいう棒の新作あんだけど渚ちん取れる?」
「多分、取れる…けど…あの、今渚ちんって言った…?」
「言ったけど?」
紫原君はそれが何?とでも言いたげに首を傾げた。いやいや色々つっこみたいとこあるよ。…よし、一つ一つ聞いていくか。
「あの、ちん…って…」
「あだ名ー。室ちんとか赤ちんとか黒ちんとか…皆そう呼んでんの」
「あー…そうなの。あと、…別にこれは良いんだけど、なんで名前…」
「?」
「…ごめん何でもない。これもっと食べていいよ」
「いいの?ありがとー」
袋を差し出すと紫原君はへらりと笑った。可愛い。可愛い、けども!
この人…頭のネジ緩くないか…?バスケ部だって風の噂で聞いたけど、この人にあんな激しいスポーツが出来るの?大丈夫なの?
サクサクとまいう棒を咀嚼している紫原君を見ながらそんな失礼なことをこっそり考えた。…お詫びに今度その新製品とやらを取ってきてあげよう。
きっかけは
(お菓子なんだよねー…)
(渚ちんはおかしくれるから好き)
(……なんか餌付けしてる気分だよ)
紫原が可愛い。彼がいきなり名前呼びなのは最初に友人が主人公を名前呼びしたからです。それまでは主人公の名前知りませんでした。
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