ごみ箱 | ナノ
さらさらと丸つけをする花宮を眺めながらふと昔を思い出す。花宮はそれはもう天使のような子供だった。くりくりした瞳に柴犬みたいな眉毛は花宮に抜群の愛らしさを与えていたし、何より性格が真っ直ぐだった。

一体あれから彼に何があったのだろうか。今や「他人の不幸は蜜の味」なんて全人類を敵に回すようなことを平然と言ってのける最低人間と化してしまった。まあそれも含めての花宮だから別に良いんだけど。

「おい…」

「何?まさか満点だった?」

「一問たりとも出来てねぇよバァカ!」

丸めたノートで頭をバシっと叩かれる。もう嫌だこの人スパルタすぎる。

「わざわざ教えに来てやってんだからもっと真面目にやれ!」

「やってるよ!ただわからないだけで!」

「なんでこれがわかんねぇんだよ…!この公式当て嵌めるだけだろうが!」

「え?そうなの?やってみる」

現在私は花宮に数学を見てもらっている。あまりにも数学の出来ない私を見兼ねて、お母さんが幼馴染みの花宮に頼み込んだのだ。

「…お、解けた!解けたよ花宮!」

「当たり前だろ。数学なんざ公式覚えときゃバカでも解けんだよ」

「よしよし…。この調子なら全部解けそうな気がする」

花宮は頬杖をつきながら必死に問題を解く私を眺めている。テスト数日前だってのに随分な余裕だ。

「あってる?」

「あってるあってる」

「え…これ暗算で出来るの」

「お前とは出来が違うからな」

「ぐうう腹立つ…」

「勝手に立ててろ」

一体花宮はどのくらい頭が良いんだろう。一緒にいる時間はそれなりに長いけど、花宮が問題を投げ出す姿は一度も見たことがない。それってよく考えると凄すぎる。

「そういえばさー」

「お前本当集中力ねぇな」

「花宮どこの高校行くの?」

「……別にどこでも良いだろ」

「そんなことないよ気になる」

花宮は頭が良いだけじゃなくてバスケも上手いから、より良い環境を求めて東京を出てしまう可能性もある。それを止めるつもりはないけど、早い内から覚悟だけはしておきたい。幼馴染みが遠くに行ってしまうのはやっぱり悲しいから。

出来れば同じ学校に…なんて思ってた時期もあったけどそれは流石に諦めた。だって花宮は天才で私は凡人だ。無理に決まってる。

「……霧崎第一」

「は?霧崎第一?」

「何か文句あんのかよ」

「いや…。ないけど…」

なんとなく花宮は都内だったら秀徳かなと思っていたから吃驚しただけだ。それにしても霧崎第一か…。うーん…そこもかなりの進学校だけど…頑張れば…私でも何とかなるかもしれない。

「そこバスケ強かったっけ」

「普通に強ぇよ。そこまで有名じゃねぇけどな」

「へえ…。花宮は秀徳行くと思ってた」

そう言えば花宮は整った顔を思いきり歪めて、バァカと吐き捨てた。

「んなとこ選んだらお前が入れねぇだろうが」

「え」

「あ」

花宮の顔がみるみる赤く染まるのを見て、私の顔も釣られるように真っ赤になった。

天才と凡人
(おい…。今の忘れ)
(花宮…!私勉強頑張る!)
(……単純過ぎんだよバァカ)


花宮にハマりました完全にダークホースです。誰にも理解して貰えないので寂しいです。純粋な子に振り回される花宮が可愛い。純粋な子嫌いそうだけど。



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