ごみ箱 | ナノ
文化祭の準備のために設けられた今日のHRはいつもより少し長い。そうは言っても文化祭当日に各係に振り分けられた仕事の確認を延々としているだけだから、俺には関係ないが。

暇だったので教室内を観察していると暇そうに頬杖をついている佐原が目に入った。

…それにしても眠そうだな。少しの間眺めていると佐原はふああと欠伸をして目尻に浮かんだ涙を拭った。その様子を見られていることに気づいた佐原は恥ずかしそうにはにかみ「何見てんだよ」と口パクで伝えてくる。イラァァァっとしたのは俺の心が狭いからではないだろう。

「というわけで生徒会が主催するお化け屋敷に協力してくれる人を有志で集いたい。誰かやってくれないか」

HRを仕切っていた唐沢が教室を見渡す。お化け屋敷か…。面白そうだ。佐原が机に突っ伏しているのを確認してニヤりと笑い、迷わず手を挙げた。

「やってくれるか。ヒデノリ」

「いや俺じゃない。佐原を推薦する」

「佐原…?寝てるぞ」

「寝てるな」

唐沢の視線が佐原に移る。佐原は机に突っ伏して、肩を規則正しく上下させている。HRを爆睡するようなやつに拒否権などあるはずがない。

「理由は?」

「こないだお化け屋敷やりたくて死にそうだって言ってた気がする」

「本当は?」

「あいつをお化け役に回してイケメンを台無しにしてやりたい」

はぁ、と唐沢が溜め息をつく。

「だってあいつ月1ペースで告白されてんだぞ!?このままじゃクラス初のリア充が出来るのも時間の問題…お前らはそれでいいのか!?」

クラス中に響き渡るような声でそう言うと、ピシャァァっと雷が落ちたような衝撃がクラスメイトの顔に浮かぶ。そうだよな…それはないよな…なんであいつだけモテるんだ…ざわざわと教室が騒がしくなり、やがて俺の意見はクラス全体の意見となった。

「というわけだ、頼む唐沢。これは俺たちの今後の団結力に関わる問題なんだ」

「……わかった。佐原には後で俺から話し」

「はあ!?お化け屋敷!?何でそんなことに…?!唐沢!そんなの俺絶対やらないからな!」

起きた…だと…!?あの一度寝たら誰かに意図的に起こされない限り絶対に起きない佐原が自分から自然に起きるなんて有り得ない。

恐る恐る佐原の方を見ると、隣の席のミツオ君が反抗する佐原をホッとした表情で眺めていた。…空気読めよミツオ君!!!

「なんで起こしたのミツオ君!」

「え…?だって自分が知らないところで勝手に決まってたら吃驚するかな…って…駄目だった…のか…?」

絶句。俺だけじゃなくてクラス中が。いち早く我に帰ったのはどうやら佐原だったようだ。

いつもは眠そうに半開きにさせた目をきらっきらさせてミツオ君の両手を取り、ぶんぶんと上下に振り始めた。

「ミツオ君お前ほんといいやつだな!俺お前と友達で良かったよありがとう!!!」

「お…おお!」

「嬉しそうにするなミツオ君!今の行動は人間的には正解だけど社会的には不正解だからな!」

「いや社会的に不正解なのお前だろ…」

「黙れタダクニ!!!」

ミツオ君のせいで計画が台無しだ。ミツオ君の天然っぷりを計画に入れていなかった俺にも落ち度はあるのかもしれないが。

こうなったら最終決断は唐沢に仰ぐしかない。こうなってくるといよいよどう転ぶかわからない。

唐沢は最初から中立の立場にあった。まあ…それもそうだろう。こいつも帽子で隠れているからいまいちよくわからないが、どちらかといえばイケメンに属する顔つきをしている。佐原を僻む理由はない。いや俺も決して僻んでるわけではないが。

「わかった…こうしよう」

唐沢の低い声が教室に響く。

「佐原・ヒデノリ・タダクニ・ヨシタケ。お前たち全員有志に参加しろ」

ガタっ、と俺たち4人は同時に立ち上がった。

「なんでだよ唐沢!」

「俺やらないってば!」

「つーか俺とタダクニ関係なくね!?」

「完全にとばっちりじゃねーか!」

「………」

口々に抗議を申し出る俺たちを無言の圧力で宥めると、「…驚いたか?」とだけ言った。

驚いたかって?そんなの驚いたに決まってるだろ!俺だけじゃなくて他の三人も同じように思ったようで「当たり前だろ何言ってんだこいつ」という視線を唐沢に送っている。

「そうか。お前たちも当日はこれくらい客を驚かせてくれ」

「っ、」

「先生。生徒会からは以上です」

「おーご苦労。他に連絡あるやついるか?いないよな?よしっ、じゃあ解散」

俺たちは唐沢の言葉に唖然としてしまい、それ以上文句を言うことが出来なかった。というかタイミングを逃してしまった。

「人を呪わば穴二つだ。ヒデノリ」

唐沢は座ることすら忘れて立ち尽くす俺の肩をぽんっと叩き、呟いた。

HRの災難
(くそ…佐原め…!)
(何で矛先俺なんだよ!)
(黙れイケメンがあああ!)


ヒデノリ視点です。タダクニとミツオ君が好きなんですが気付くとヒデノリに話を乗っ取られている…なぜだろう。文化祭の話を見返したら書きたくなったので殴り書きました。



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