寒い日の話(財前)






「寒い…」



「寒い」


「寒い!」


さっきから寒いと口を尖らせながら何回も呟いてるんは、俺の彼女。


雪のような霜のようなものが、うっすら積もる歩道

俺の少し後ろをとぼとぼ歩いてる。

何か不満があると歩くのが遅くなるんは彼女のクセ

今はおそらく寒いんが不満なんやろう。


「寒いってばー!」

耳当てにマフラーにコートに手袋、そんだけ防御しててまだ寒いとか…
もう手の施しようがないやろ。
俺なんか手袋すらしてへんっちゅーねん。


「さーむい!さーむい!」


…あーっもう


「そんななぁ、寒いとかどうしようもないこと何回も言ってもしゃーないやろ。アホ」


振り返ってそう言うと、ピタッと彼女が立ち止まった。


急に黙ったな…
アホは言いすぎたか…?

平静を装うも、内心ちょっと焦ってる俺ダサ…


「だって…光から手つないでほしかったんだもん…」


そう言って俯く彼女が
大層かわいくて、即ざに手を握った俺も相当アホ



「あったかいね」

そう言った彼女は、いつのまにか手袋を外した手で俺の手を握ってた。
素肌と素肌が触れ合う感触が心地良い。


「何で手袋はずしたん。寒いやろ」


「ん!こっちの方があったかいの」


その笑顔で、なんやこっちまであったかくなった気がした。