勉強の話(幸村)
※高校生設定






疲れた…

大学受験が本格化してきた今日この頃
毎日毎日、勉強
テレビも漫画もがまんして、勉強

それでもいまいち集中できなくて、頭に入ってるんだか入ってないんだか


眺めていた模試の結果をくしゃりと鞄に詰め込んだ



「おかえり」

「あ、精市…ただいま」

家に着くと、お隣の精市が
庭の花に水をあげていた。




のんきなものだ…
精市は大学付属の高校だし
成績も申し分ないし
受験なんて関係ないもんね…





…最悪
こんなのただの八つ当たりだ

精市は精市でテニス部と勉強の両立で毎日一生懸命努力しているのに
私はそれをちゃんと知っているのに

自分がうまくいってないからって、人を妬んでしまった

あー
もう嫌だな…
醜い自分




「どうしたの?大丈夫?」


「…なんでもないよ。大丈夫」

なんか、自分が情けなくて精市の顔見られないや




「大丈夫じゃないだろ」


精市の顔を見ないように、家の門をくぐろうとしたけど
右手を捕まえられてしまった。

温かくて大きな手
優しくて力強い目を見てしまうと、張り詰めた気持ちが緩んで涙が浮かんできた。



「疲れた顔してるね。ちゃんと眠ってるの?」

「…寝てる、けど…あんまり熟睡できない…だって、私が寝てる間も他の人は勉強してるかも…とか、考えちゃってっ…」

だめだ
涙が止まらなくなってきた


「模試だって…D判定から上がらない、し…もう…ひっ…やだ」

泣きすぎてうまくしゃべれない
でも精市は、うん と小さく頷きながら聞いてくれる。






どれくらい泣いただろう

今までためていたことを、全部吐き出せた気がする。




「落ちついた?」

「うん…なんかすっきりした」
思い切り泣いてしまったのが
何だか照れくさくて、へへへと笑った



「辛い時期だね。周りのみんなだけが上手くいってるようにみえるだろうけど、実際はそんなことないよ。」


私が話終えたのを悟ったように、精市が言葉を発した


「みんな同じようにいっぱい悩んでると思う。だから、自分だけなんて考えずに、ちょっと客観的になってみなよ」


不思議だ
精市の言葉を聞くと、すっと心が軽くなり
背筋が伸びるような思いだ。
同時に、今まで自分がどれだけ下を向いていたかに気がついた。



「ありがとね」

今度は精市の目を見て
はっきり言えた。







「…大学落ちても大丈夫だよ。俺がもらってあげるから」


「え゛」



それは最強のすべりどめ