うだうだと、なんやかんや理由をつけて

結局12月はあのクリスマス会以来部活に顔を出さなかった。

休むと言っても何も言われなかったし、例のアラームも一度も鳴らなかった

みんなに呆れられてしまっただろうか


テレビの中で華やかな着物を着た芸能人が、あけましておめでとうございますと晴れやかな笑顔を浮かべていたけど
部活を休んでしまった罪悪感から、どうもそんな気持ちにはなれなかった。

今日は年明け最初の部活の日だ。

家でうだうだしてたって心が晴れるわけない。
お互い立海の高等部に進学するんだから、このまま幸村君と顔を合わさず過ごすなんて
無理な話なのだ。




…………ていうか今思ったけど

あの告白、冗談だったらどうしよう…
私をからかういつもの冗談だったら…

もしそうだったら私って、かなり恥ずかしい人じゃない…?

うわぁ…どうしよう!
冗談なのに本気にしちゃって部活まで休むとか!!!
恥ずかしすぎる!!

どうしてこの可能性がすぐに思い浮かばなかったんだろう?!

仁王くんに言われた時はすぐ冗談だってわかったのに!

そうとなればさっさと部活に向かおう!
なんで休んだの?ってきかれたら
おばあちゃん家行ってたことにしようそうしよう!!




一週間とすこしぶりくらいの部室なのに、なんだかすごく久しぶりな気がした。

ほぼ毎日来てたもんなぁ


「…おはよう」

すこし緊張しながらドアを開けると
ホワイトボードに練習メニューを書いていた柳くんが、こちらに振り向いた。


「小宮山…久しぶりだな。」

「長い間すみませんでした…」

柳くん1人か…
ちょっとほっとしたな…


「精市に告白でもされたか。」

「???!!!!」

ぶつかった机やイスがガタガタガチャンと大きく鳴った


「当たりのようだな。」
柳くんが余裕たっぷりに、ふっと笑った。

「なっ…なんで…なに…」
言葉にならない言葉があわあわと口からもれ、
顔が燃えるように熱くなる

「なぜって…俺は去年の5月から精市の気持ちを知っているぞ。精市に頼まれておまえのデータを収集したからな。」


あぁ…だから最初に部室に忍びこんだ時、あんなにすらすらデータがでてきたのか…謎がすべて解けた真実はいつもひとつだとするならば…

「幸村くん…冗談で言ったとかじゃ、ないんだよね?」

「冗談で片付けたら精市が気の毒すぎる。」


そうか…そうなのか………
幸村くんは、本気で…


「それで?おまえはどうなんだ。」

「え?」

「精市のことが好きなのか?」



私…
私は………



「正直よくわからない…」

「気の毒だ。」

「…だって、そりゃ、嫌いじゃないよ。でも恋ってよくわからないよ。幸村くんのことは好きだけど…恋愛感情なのか、とか…じゃあいつ好きになったの?とか、どこが好きなのってきかれたら…具体的に言えないもん」


「恋という分野に関しては、はっきりと答えが出ることが必ずしも正解とはいえないんじゃないかと俺は思う。」


柳くんは優しい口調で続けた

「好きなところを挙げるより、嫌いなところを知っていてそれでもなお何故か愛しいと思ってしまうのが恋なのではないだろうか。」



「意外とロマンチストなんだね」

「柳生に勧められた本の影響かもしれないな。」

そう言って二人で笑った。





「もう少し…ゆっくり考えるよ…」

「しかしもう時間はあまりないぞ?」
柳くんの視線につられて時計に目をやった。
時間?なんの?

「その様子ではきいていないようだな…」

「…何が?」
なんだろう、さっきより空気が緊張したようで、心臓の音が頭に大きく響いた。


「精市はアメリカへ留学する。」


え?

一瞬で喉の水分が干からびたような感覚。
アメリカ?
留学?
高校は?

幸村くんは
立海の高等部に行かないの?

いろんな疑問で頭がぐちゃぐちゃ
何からきけばいいのかわからない





「いつ…?」

柳くんは、あまり時間がないって言っていた


「今日だ。」

「え…えぇぇ?!」

今日?!
嘘でしょ?

もう…行ってしまったの?
最後に顔を合わすこともなく?



「今から空港に行けばまだ間に合う。」

柳くんはそう言いながら、ノートの切れ端に飛行機の時間や航空会社などの情報を書いて渡してくれた。



「……ありがとう!」


柳くんにお礼を言って、走り出した。


告白してくれたのに、何もこたえずに
勝手に部活も休んで

こんな私が会いに行く資格なんてあるんだろうか

そんな考えが頭に浮かぶけど

でも…

そんな考えなんかお構いなしというように、道路を駆ける足が止まらなかった。
柳くんの言葉を思い出しながら
浮かんでくるのは幸村くんの笑顔だった

ちょっとした意地悪や、いたずら、ムカっとくることもあったけど
思い出すのは、冗談を言った後に楽しそうに笑う幸村くんの顔だった。