「メリークリスマス!」

パーンと切原くんがクラッカーを鳴らした。


「なんだよ、このタイミングで」

隣に座っていたジャッカルくんが思わず耳を塞いだ。

そりゃそうだ
だってクラッカーはクリスマスパーティーが始まった時にすでにみんなで鳴らしたのだ。


「だって余ってるし」

切原くんはご機嫌にチキンにかじりつく。

今日は楽しい楽しいクリスマス

部活が終わった後にパーティーをと
丸井くんがいろいろ企画してくれた。

部室に入ると、サンタ帽を手渡され
みんながサンタ帽を被るというなんとも浮かれた場ができあがった。

「なんで俺だけトナカイなんだよ…」

「ぶふっ」
ジャッカルくんの悲痛でもっともなつぶやきに、耐えきれず吹き出す者多数。

「似合ってるっすよ!先輩!」
「お前以上にトナカイカチューシャを付けこなせるやつを俺は知らん」

切原くんや仁王くんが嘘くさくフォローした。


「よーし、じゃあそろそろアレいくか!」

「これはもしかして!」
このタイミングでくるものといったら!アレしかない!
「どうだー!クリスマス丸井スペシャル!」

丸井くんが大きな白い箱を取り出し開くと、どーん と効果音が聞こえてきそうなほど大きなキラキラしたケーキが姿を現した。


「あいかわらず、すごいねブン太」
「ちょーうまそうっす!」
「デコレーションも完璧ですね。」

みんな口々に賞賛の声をもらすと、丸井くんは そうだろそうだろ と笑う。


フルーツと生クリームたっぷりの丸いケーキ。
ちゃんと苺ものってるー!


「9等分か…それなら角度は…」

包丁をもつ丸井くんに、柳くんが呪文のような数字を羅列して切り方を指示し始めた。


さっぱりわからない…

あ、でもなんか良いかんじになってる。
さすが。


おいしい料理とおいしいケーキを食べながら
いつもどおりの他愛もない話をしていたら、時間が過ぎるのはあっという間。ら


部室の片付けをして、みんなで帰ることにした。


「では、私はここで」

「俺もあっちっす!」

「またな〜」

分かれ道の度に、ひとりまたひとりと
みんなそれぞれの道へ帰っていく。

さっきまでみんな一緒だったのになぁ

なんか少し寂しくなってしまう。


結局最後は幸村くんと二人になってしまった。

駅のホームまでは同じだけど、方面が違う。

「あー、私の乗る電車、さっきいったばっかりみたい…」

「俺のもしばらくこないみたいだ」

「この時間けっこう間隔あくよねー…」


どうしよう
これだとしばらく幸村くんと二人だ…
だめだ、意識したとたん
軽く混乱してきた。

会話を探すように、頭をうんうんとフル回転させた


「えっと……去年も、部室でパーティーしたの?」


「そうだね……去年は俺が入院してたから…みんなが俺の病室に来てくれたんだ」


あ…そうか……


「ブン太がたくさんクッキーを作ってくれてね、俺の病室に遊びにきてた子ども達に配ってくれた」


幸村くんは懐かしそうに目を細めた

それは、私が知らない時のみんなだ。


「みんな、ほんとにすごいよね。なんか…絆っていうかさ、そういうの羨ましいな」


「あんまりストレートに言われると照れるけど…でも、うん。確かに、みんなのおかげだよ。こうしてまたテニスできるようになったのは。」

そこに自分がいないことが、寂しいなんて
自分勝手なことを考えてしまっている。


「君もだよ?わかってる?」

「……なにが?」

私も?
なにが?
よくわからなくて幸村くんの目をまっすぐ見た。




「君も。俺がテニスできるようになったきっかけ」



何がなんだかわからなくて
ただただ幸村くんの次の言葉を待つしかなかった。