ハロウィンも終わり、スーパーのお菓子コーナーがハロウィンのオレンジからクリスマスの赤や緑のパッケージで染まる頃

普段はみんなあまり近付きたがらない職員室が、受験を控えた3年生ですこし賑やかになる。

外部に進学する子は特に忙しそうだ。


みんながんばれ〜、と心の中で念じながら職員室の前を通り過ぎようとすると
タイミングよくドアが開いて誰か出てきた。

「あ、」

「やぁ、偶然だね」


職員室から出てきたのは幸村くんだった。
手には……大きな封筒?


「めずらしいね、こんな所で会うなんて」

「そうだね……あの、その封筒って…」

なぜかまともに顔が見れなくて、幸村くんの手もとの封筒にばかり目がいってしまう。

「知りたい?高いよ?」

「…遠慮しておきます……」

そう言うと、幸村くんは笑いながら
また部活でね と廊下を進んで行った。


なんか、はぐらかされちゃった?


幸村くんの後姿をしばらく目で追ったあと、私も目的地の裏庭に向かった。

この時期は裏庭のベンチが日当たり良好なのだ。

私以外誰もいないことを確認し、ベンチに座って伸びをした。


「ふぅ…」

眠ろうと目を閉じても
ふと頭によぎる、さっきの幸村くんの姿。

あの封筒……同じクラスの外部進学する子が持ってたのと似てる……気がする


「なんじゃ、珍しく難しい顔して」

「ぎゃあ!!」

仁王くん…!
急に目の前に顔が表れてびっっくりした!


「相変わらず女子力の低い悲鳴…」

「ほっといて」

ククッと笑う仁王くんを睨みつけるも、そんなのお構い無しに隣に座ってきた。


「何か考え事か?」

「…べつにー」

幸村くんのことで考え事なんて言ったらまたからかわれてしまいそうだから、絶対内緒だ。

「ねぇ、仁王くんはさ、このまま立海の高等部いくよね?」

「まぁな。おまえさんは?」

「当然、立海高等部。少しでも受験の数減らしたくて立海選んだんだもん」

「おまえさんらしいのう…」

仁王くんがベンチに深くもたれながら笑った。

「…みんなそうだよね」

「ん?」

「テニス部のみんな、高等部進むよね?」

目をまっすぐ見ながら聞くと、仁王くんは少し驚いたように目をまるくしていた


「いつになく真剣じゃな。…なんか不安なことでもあるんか?」

頭をポンポンと軽くたたかれて、自分の肩に力が入っていたことに気付いた。

少し前のめりになっていた体を戻すと
だんだん落ち着いてくるのがわかる。


「いや……違う………ことはない、かな?……うん、言葉に言い表せないただの不安…かも」


不安…?

何故だ?


「まぁ、思春期やからのう。多いに悩め」

再び眉間にシワを寄せ始めた私の頭を、またポンポンと笑いながら軽く触る仁王くん。

てか私たち同い年でしょう…


「仁王くんて優しいよね」

本人は優しい人、なんて思われたくないんだろうけど

少しは照れるかな?と思い、仁王くんの顔を観ると
ニヤリと悪そうに笑った

「まぁ、好きやからな。おまえさんのことが」

「はいはい、アリガトネー」

「ちっ、騙されんか」

あったりまえでしょう。
何回騙されたと思ってるんだ。


そうだ、毎日騙されたり怒ったり笑ったり
そんな毎日がもうすぐ終わるかもしれない なんて
柄にもなく不安になってしまっただけだ。
最初は部活に出るのをあんなに嫌がっていたのに。勝手なものだ。


幸村くんの後姿がやけに頭から離れないのだって
そんな不安の一部なんだ、そうに違いないのだ。