空気がカラッとしていて、どこか哀愁ただよう秋晴れのお天気

久しぶりに屋上庭園にやってきた。

屋上庭園のベンチは、私のお昼寝ポジションの5位以内に入るほどの良ポジションなのだけど
外というだけあって、使える時期が春か秋の短い間に限られている。


6月のとある日曜、補修で登校させられた時のこと。
梅雨の晴れ間が嬉しくて、まだいけるかな?と屋上で昼寝してみたら
寝てる途中でカンカン照りになって大変なことになったことがあった。


あの時の汗だくの自分を思い出して
ゾッとしながらきなこもちのチロルチョコを食べた。

あの日も確かこれを食べてたんだ
起きたら溶けてベタベタになってたけど…

今はもう10月だし、前みたいになることもないだろうと
ゴロンとベンチに寝転がった。



ぽかぽかと日の光がきもちよくて
チョコもうまい

幸せ

とろんと重い瞼を閉じた。








「また昼寝?」


聞き覚えのある声…

恐る恐る目を開くと、太陽の光に包まれた
幸村くんが、寝転ぶ私を見降ろしていた。
「うわっ…!!な、なんでここに!」


「こっちのセリフだよそれは。俺は美化委員の仕事をしにきただけ」


そう言う幸村くんの手には、軍手やスコップが握られている。



「相変わらずここで昼寝してるんだね」

呆れたように笑われて、なんだか恥ずかしくなる。


相変わらずって…ここで幸村くんに会ったの初めてだと思うんだけど


もう教室戻ろう…


「え?帰るの?」

「え?帰るけど?」
起き上がって校舎へ戻るドアへ向かう私の肩を、にっこりと幸村くんが掴んだ。










「うあー!疲れたー!」

あの後花壇の草抜きを無理矢理手伝わされ、まったく昼寝できないうちにお昼の休憩が終わってしまった。

疲れた!なんか疲れた!

ドクドクと
いつもより心臓の鼓動が速い。

きっと二人であのひろーい花壇を手入れしたせいだ。
そうに違いない。

昼寝ができなかったことと、草抜きから解放された安心感も合間って午後からの授業は眠気との戦いだった。

隙あらば閉じようとする瞼を必死で持ち上げながら受けた5時間目の国語のノートには
解読不能の、文字らしきものが並んでいた。


こんなことなら諦めて授業中に目を閉じてしまえばよかった…

ううっと唇を尖らせながら、ジャージに着替えてテニスコートに向かった。


さぁ部活だ部活




「小宮山ー!」


呼ばれた方を振り向くと、丸井くんがとても楽しそうにやってきた。


「trick or treat!!!」


「…………あぁ…」


すっごい笑顔で右手を突き出す丸井くん。
そうか、今日はハロウィンか。
私にとってのハロウィンは、お菓子の限定かぼちゃ味を買い漁る行事だ。
31のハロウィン限定アイスはもちろんコンプリート済みである。



「あぁ…ってお前!なんつー可愛げのない反応だよ」


「や…だってさ、いつもお菓子くれー!って言っくる人にトリック オア トリートとか言われてもねぇ…」

聞き慣れて新鮮味がないっていうかなんていうか


とはいってもこの人達のいたずらなんて恐ろしくてまっぴらごめんなので
とりあえずジャージのポケットを探ってみた…けど…
さすがにジャージにまでお菓子は入れてない


「ごめん持ってないや。また後でいいよね」


「よくない。いたずら決定だな」

丸井くんが心底楽しそうに、ニヤリと笑った。
やだ、その顔仁王くんそっくり。
類は友を呼ぶってやつか


「幸村くーん!小宮山が今日一緒に帰ろってよ〜」


たまたま通りかかった幸村くんの前に、ぐいっと押され
少し目を丸くした幸村くんと向かい合わせに目が合った。
たぶん私の目も丸くなっていることだろう


「………え?!い、言ってない言ってなっ」
「珍しく積極的だね、いいよ」


必死で取り消す声も虚しく
にこりと笑う幸村くんと2人で帰ることになってしまった。


まーるーいー…!

唇を噛んでキッと睨むも、丸井くんはまったく気にする様子もなく
楽しそうに笑うだけだった。






なんでこうなった

いや、100%ピッグ丸井のせいなんだけど…


隣を歩く幸村くんをそっと見ると
真っ赤な夕日に照らされた、整った横顔が目に入った。


そういえば
前にもこうして2人で帰ったことがあったな。

あの時は私が体調悪くて保健室で眠ってて
起きたらきなこもちチョコがあって

それは幸村くんが用意してくれたものだった。


それは偶然にも私が一番好きな味で、疲れていたからいつも以上においしく感じたのを覚えてる。




再び幸村くんを見ると、タイミング悪く目が合ってしまった。


「なに?」

「なっな、にも」


お昼の時といい心臓に悪い!

何か話して気をまぎらわそう!


「……なんか1年ってあっという間だよね」


「そうだね。また試験もあるし。」

「今回ちゃんとやらなきゃやばいよね、進学かかってるもんね」

「まぁよっぽどのことが無い限り高等部には上がれるだろうけどね。」


幸村くんは余裕なんだろうな

私もたぶん大丈夫だと思うんだけど…
万が一ってこともあるし、やっぱり少しの不安はある。


「……みんな、立海の高等部にすすむんだよね…?」

この前ふと感じた疑問を、思い切って聞いてみた。

幸村くんはまっすぐ前を向いていて、その顔からは何を考えてるのかよくわからない。


そうするうちに、さっきまでの鮮やかな赤い秋の空は
どんどん暗みが増していて
不思議な怖さを感じる色になっていた。


「そうだと思うよ。」


さっきの間はなんだったのだろう。

でもなんとなく深入りする一歩が踏み出せなくて

幸村くんと同じように、前を向いて歩いた。


空はもう、真っ暗な夜だった。