高くて青い空が広がるお祭り日和
ついに海原祭当日がやってきた。

学校中が色とりどりの飾りでいっぱいで、生徒達もメイドやお化けなど
いろんな格好で慌ただしく、でもそれ以上に楽しそうに動き回っている。


「ふぅ…」

大きく息を吸い込んで、ゆっくり吐き出した。
テニス部の演劇が、あともう10分もすれば始まる。
最終チェックも終わり、あとは開幕を待つのみ。やることないと落ち着かないよ…

私は舞台には立たないけど
それでもやっぱり緊張する。
だって目指してるのは最優秀賞だもの。失敗はできない。

足に力が入らないし、手も冷たくて汗ばんできた。


「小宮山、大丈夫か?」

そう言って、私の顔を覗き込んできたジャッカルくんにはあんまり緊張とかは感じられない。


「すーっごい緊張してきた…ジャッカルくんは平気そうだね」

「あー…まぁ俺たちは人前で何かやるのはそれなりに慣れてるからな。試合とかで」

そっか
テニス部の試合はいっつもギャラリーすごいもんね。
その中で毎回実力を出し切って勝っちゃうんだから…やっぱりみんなはすごいな


「そんな格好じゃ何言っても様になんねーな、ジャッカル!」

「おまえもな」


馬の着ぐるみ姿のジャッカルくんと
かわいいドレス姿の丸井くん

おもわず笑ってしまった。



「あと5分だ、みんな集まって」

幸村くんの声に、みんながぞろぞろ集まり
円になって肩を組んでいく。


円陣かー…
なんか良いな、ああいうの
男の子同士の友情って感じだね

少し離れた所から、青春だなぁとみんなの姿を眩しく思った。





「小宮山」

真田くんに呼ばれてはっとすると
みんながこちらを見ている。


「何ボーッとしてんすか!」

「さっさと来いよ〜」


え…え…?


戸惑いながら円陣に近付くと、丸井くんに腕を取られ
円陣の中に組み込まれた。


「私も…いいの?」

「当たり前だろ。」

幸村くんがふっと笑い、目を閉じた。

その目が開かれたと思うと
さっきとは全然違う、真剣な表情。


「みんな準備はいいね?演劇でも、勝つのは俺達立海テニス部だ。全力でいこう」

「イエッサー!!」


薄暗くて少し埃っぽい幕の後ろに響くみんなの大きな声

初めての円陣は、戸惑いでいっぱいのまま終わってしまったけど
不思議と気合いが入るものだった。


よし、がんばるぞ


こうしてみんなで作り上げた劇は順調に進み
始まってしまえば終わるのはあっという間な気がした。


緊張の中にも、終わってしまうんだなという寂しさも出てきたりして

大変だったけど、やっぱりそれ以上に楽しかったんだよね。


フィナーレの音楽が流れ、
ゆっくりと幕がおろされた。



「終わったー!」

「大成功だったよなー!」

「こりゃ最優秀賞確実だな」

みんなそれぞれ労いあって、いろんなところでハイタッチの音が聞こえる。



「みんな、お疲れ様。最高の仕上がりだったよ。」

「幸村部長も!お疲れ様っす!」

赤也くんはかわいいドレス姿のまま、満面の笑みだ。


「なぁなぁ、打ち上げどーすんの?」

丸井くんはきっとまたお腹が空いてるんだろうな…

「海原祭が終わったらやろうかと思ってるんだけど…ブン太は今食べたいんだろ?」


「そのとーり!さっすが幸村くん」


「そういえば昼食をまだとっていませんね。」


みんなもお腹がすいてきたようだ。

……アレを出すなら今がチャンスかも




「あの〜、提案があるんだけど…」

そろりと低く手を上げると、みんなの視線がこっちに集まった。






「マジでこれ好きなだけ食っていいの?」

場所は変わって私のクラスが出している喫茶店。


準備された特等席に座るテニス部のみんなを囲むように、目を輝かせてスタンバイしているウェイトレス軍団(クラスの女子)


「好きなだけどうぞ!」
と、注文されるのを今か今かと待っている。
すごい人気だねぇ、と彼らの隣のテーブルについた。
私はどーせタダじゃないもんねっ


みんなが頼んだケーキや紅茶が並べられると
だんだん周りが騒がしくなってきた。


テニス部レギュラーが大集合している、との噂を聞きつけて
他のクラスの女の子達がお客さんとして集まってきたのだ。

さっきまでいっぱい空いていた席がどんどん埋まって廊下には列もできている。

恐るべしテニス部の威力


これ、売り上げすっごい上がっちゃうんじゃない…?
模擬店部門で1位とっちゃったりして。


「ヨウコ、記念に写真撮ってもいいかな?」

デジカメ片手に目をきらきらさせているのは親友のあっちゃん


「いいと思うけど…聞いてみる?」

「お願い!」

あっちゃんは未だに緊張して彼らに話しかけられないらしい。
見てるだけがいいの!と今でもよく言ってる。


「あのー、みんなー。記念に写真撮りたいらしいんだけど1枚良いですかー?」


「おー、いーじゃん撮ってもらおーぜー」

丸井くんはケーキを頬張りながらすでにピースしてる


「じゃあ演劇無事終了の記念ってことで。撮ってもらえるかな?」


幸村くんが菩薩のような笑顔であっちゃんに笑った。
こんな顔してあんなことやこんなことするんだからほんと油断ならない


隣のテーブルで、みんながフラッシュに包まれるのをぼんやり眺めた。
さっき1枚って言っちゃったけど、どう見てもアレ
1枚じゃねーな…まぁいっか…


それにしても…
記念か


前に幸村くんが言ってたように、私達3年は最後の海原祭。
それに私がテニス部を手伝う契約は、確か中学卒業まで。

切原くんは1年遅いけど、
でもみんなこのまま高等部にすすむだろうし、今年で離れ離れってことはないだろう

………ないよね?

そういえば、みんなで進路の話とかしたことないな

立海の高等部に行くのが当たり前って考えがどこかにあるからなのかも


急に漠然とした不安?寂しさ?なんだかよくわからない焦りにおそわれて

携帯のカメラでこっそりみんなの姿を撮った。

キラキラしてる
これが思い出になる日がくるんだろうな


「てか小宮山先輩も!撮りましょーよ!」

切原くんにひっぱられ、一気にみんなの輪の中に入ってしまった。


「来るのが遅いんじゃ」

「叩かれてやんの」

仁王くんが私の頭をコツコツ叩くと、丸井くんがいたずらっぽく笑った。


「じゃあ最後、撮りまーす」


名残惜しさを吹き飛ばすように、思いっきり笑った。