午前中に幸村くんが言っていた通り、練習後に海原祭のミーティングが始まった。

海原祭か…テニス部は何するんだろうな。
うちのクラスは無難にカフェだけど…
掛け持ちなんてできるのかな


みんな興味津々といった感じで、前に立つ幸村くんに注目している。



「今年の海原祭、劇をやろうと思う。」


げき………
げきって

劇ぃ?!




「それって全員出るんすか?」


「そうだよ。」


ってことは私も…?

劇って…セリフとか覚える自信ないし
ましてや人前に立つなんて
無理無理無理無理!!



「演目はシンデレラ。もう配役も俺と柳で決めたから発表するね。」


真田くんは委員会で役決めには参加できなかったらしい。

幸村くんと柳くんて…
嫌な予感しかしないんだけど

絶対悪ノリしまくって楽しんでたに違いない。
真田くんがいたら止めてくれたかもしれないのにぃ!



「では順番に役を発表する。何か意見があれば言ってくれ。」

柳くんが持っていたノートに目を落とした。

「嫌な予感しかしないな」

「奇遇だねジャッカルくん。私もだよ」


でも抗う術なんてあるわけもなく
ジャッカルくんと弱々しく笑いあった。


「まずシンデレラ、」


あ、
ちょっと待てよ?

シンデレラって、女の子だよね
テニス部の女の子って私だけだよね

ってことは私がシンデレラ…?
え、ちょっ

それは困…

「シンデレラは、赤也「ちょっと待ったぁ!」


予想外の出来事に、思わず立ち上がってしまった


「なんで切原くんがシンデレラ?!別にやりたくないけど!なんか、こう…屈辱…!いや、別にやりたくないけどね?!」


「そ、そうっすよ!なんで俺がシンデレラなんすかぁ!」


私の勢いに一瞬驚いた切原くんも続いて抗議した。



「まぁまぁ。言い忘れてたけど、これは普通のシンデレラじゃなくて喜劇シンデレラなんだ。」


幸村くんが余裕の笑みを浮かべながら、なだめるように言葉を続ける

「だからシンデレラを男の赤也にしてみたんだよ。赤也がドレス着てたらおもしろいだろ?」


「まぁ小宮山にドレス、というのもなかなかおもしろいがな。」

「豚に真珠みたいな言い方やめてくんない柳くん」


少し腹の立つ部分はあったものの
そういうことなら何の文句もない。

何度も言うけどシンデレラを演りたいわけじゃないし。



全ての役が発表され、結局私はナレーターという位置でおさまった。
セリフ覚えなくていい!
やった!



「ちょっと〜これマジでやるんすか〜?俺ドレスとか着たくないっすよ〜!!」

「観念しろ赤也。だいたい俺と柳生もドレスだっつーの」

丸井くんと柳生くんは意地悪なお母さんとお姉さん役

「俺なんて着ぐるみだぜ…」

ジャッカルくんは馬の役


ぷぷっ…
ちょっとコレ、想像するだけでちょっと楽しいんだけど
自分が当たり障りないナレーターだから笑えるのかもだけど


他のみんなからは、いや〜な雰囲気が漂っている。



「みんな。」

そこに幸村くんの声がピンと響いた。


「それぞれ異議はあると思う。けど今回の海原祭は、このメンバーでできる最後の海原祭だ。本当に最高の仲間達だと俺は思ってる。だから最後に、最高の舞台を作りたい。」


幸村くん…


「みんな、力をかしてほしい。」


いつにも増して真剣な幸村くんの顔。
そんな顔して、そんなことを言われたら…

「……そうだな、最後なんだよな」

「全員で協力し合いましょう。」

「よーし、やるか!」

みんなも同じ気持ちのようだ。



「赤也も。協力してくれるかな?」

「…部長にそこまで言われちゃあね…うっす!男見せるっすよ!」


「よし。」


…一見爽やかな青春ドラマみたいで感動しかけたけど…
今幸村くん一瞬悪い顔したよね?
絶対しめしめって思ってる顔したよね?


「じゃあ海原祭まで、全力でいくよ」

「おー!!」



どうなることやら…

でもきっと楽しくなる
そんな期待と少しの不安