合宿3日目

明日は早朝に出発するから、じっくり練習できるのは今日で最後だ。


3泊って長かったような短かったような…
でも、海遊びとか花火とかバーベキューとか
夏のお楽しみをギュッと凝縮させた感じだったなぁ




「なぁに腑抜けた顔してんだよ。まだ合宿は終わってねぇぞー」

「まぁそうなんだけどね」

丸井くんにしゃきっとしろぃ、と笑われてしまった。


「ぶちょ〜!小宮山先輩がサボってま〜す!」

「ちょっ!サボってないわよ!」

キャッキャと笑う切原くんに軽く蹴りをいれてから
自分の仕事に戻った。






「じゃあ今日の練習はここまで!」

辺りがすっかり暗くなった頃、合宿最後の練習が終わった。


「今日の夜は何して遊ぶんすか〜」

「馬鹿者!荷造りに決まっとるだろうが!」

「赤也、忘れ物するなよ」


はしゃぐ切原くんを、真田くんやジャッカルくんがやんちゃな弟を見るような目で見てる


「え〜!せっかく最後の夜なのに〜」

「ポーカーくらいなら付き合ってやってもいいぜよ」

「切原くんが寝坊しても放って帰るつもりでしょう、仁王くんは。」

バレたかとでも言うように、仁王くんは悪い顔で笑った。

「小宮山もやるか?ポーカー」

「お断りします」

置いて帰られるなんてまっぴら御免だ



そんなことをワイワイ話しながらペンションに戻った。



最後の晩ご飯で海の幸をたくさん食べると、いよいよ各自荷物の整理だ。





「う〜ん…」

来る時は全部入ってたのに、帰る時はなかなかカバンに全部入らない…

まだおみやげとか何も買ってないのに…!

はぁ〜と脱力してベッドに寝転ぶと、他の部屋からみんなが準備してる声がうっすら聞こえてくる


こういう微かな生活音って、安心するなー


あと少しで荷造り終わるけど、終わる目処がつくと休憩したくなるんだなぁ


喉も乾いたし、リビングに降りてみよう。


部屋を出て廊下を歩くと、真田くんが怒る声と切原くんが謝る声、丸井くんの笑い声とジャッカルくんの溜息が聞こえてきた
みんなそれぞれ荷造りがんばってるなぁ、と自然に口元がゆるんだ。



「あれ?柳くんはもう終わったんだね」


「あぁ。おまえも終わったのか?」

「うーん、あとちょっとかな。」


リビングのドアを開けると、既に準備が終わっているらしい柳くんの姿が。

ソファーで読書をしている柳くんの横を通り過ぎ、冷蔵庫へ向かった。






「ジュースがまだあるぞ。」

「あ、ほんとだね。もらっちゃお」


「あと、今日は月が綺麗だからベランダに出ることをおすすめする。」


「月かぁ…」

昨日の花火の時に見た月を思い出した。
綺麗だったな…
最後に見ておくのも良いかも。


「じゃぁちょっと見てこようかな。ジュース飲みながらお月見って贅沢だよね。」


「それならジュースは2本持って行くと良い事があるかもしれないぞ。」


「…なんで?」

「行ってみれば分かる。」
意味深に笑みを浮かべながら、再び本に目を落とした。


よくわかんないけど…
柳くんが意味の無いことを言うとは考えにくいので、とりあえずジュースの缶を2本
すこしお腹も空いてきたので、お菓子を適当に取ってベランダに向かった。








「うわ〜…!今日もまたすごい月……あ、」


「やあ」


先客がいた。




「ゆ、幸村くん?」

暗くてよく見えなかったけど、暗闇に目が慣れてくると
その姿がはっきり見えてきた。
ベンチのようなイスに座る幸村くんだ。


どうしよう…

べつにどうもしなくていいんだけど…!


「突っ立ってないで座れば?」

そう言って幸村くんは自分の隣を手で示した。



せっかくなので、少し警戒しながらそろーっと座り
2本持っていたジュースを1本渡した。


「あれ、気が利くね。ありがとう」

「…柳くんが2本持ってけって」

柳くんはベランダに幸村くんがいることを知っていたんだろう。

「あぁ、柳か…」

幸村くんはそれだけで何か分かったようにクスっと笑った。



どうしよう
何を話せば…

私は自分でなかなか気が強いし図太いって思ってたんだけど(柳くんにも言われたことあるし)

それが、なんか幸村くんを前にすると
引っ込んでしまうんだ。

自分が自分じゃないみたい。
怖いのかな?
やたら悪戯されるし…
次は何されるんだろうって、警戒してしまってるのかもしれない。

そうだ、そうに違いない。




「高性能のカメラがあったら綺麗に撮れたかもしれないね。」


「……へ?…あ、月?そうだね」

急に発せられた言葉に驚きながら、私もまた月を見た。

そうだ、私は月を見にベランダに来たんだった…!
予期せぬ幸村くんの存在に忘れてしまっていた。


改めて見るとやっぱり綺麗だな。

あの月の周りの色
ぼんやり優しい青緑みたいな色

やっぱり何かに似てるんだ。

何だったかなぁ…




パキッ



音のした方を見ると、幸村くんがジュースのプルタブを捻ったようだった


私も飲もうかな
お菓子も持ってきた…し………あ、


「幸村くんの髪の色に似てるんだ…!」

「…何が?」

「ほら!あの月の周りの優しい色!昨日から何かに似てるなーと思ってたんだけど!幸村くんの髪だ!やっとわかったー!スッキリー!」




………………



…今、全部、声に出して言っちゃった…?



幸村くんが目を丸くしてポカンとこちらを見てる。


言っちゃったよねこれ
聞かれちゃったよね
何言ってんだコイツって顔に書いてあるもんうわぁぁあ







「…ごめん」
空気に耐えきれず、とりあえず謝っておいた。



「なんで?褒め言葉だろ?」
くすくす笑いながら幸村くんがこっちを見た



「わかんない!」

なんかもうどうしようもなく恥ずかしくて、持ってきたポテチを色気無くバリバリ食べた。







月は相変わらず、ぼうっと静かに浮いている


空はやっぱりどこか優しくて、落ち着く色をしていた。