練習が終わり片付けをしていると、丸井くんがやって来た。


「小宮山〜お前、明日練習の後どーせヒマだろ?」

「……ヒマだけど」
どーせって!
まぁヒマだけどさ
なんか悔しい


「これ!みんなで行くからな!」
丸井くんが満面の笑みで出したのは、花火大会のチラシだった。

「そっか!明日花火大会だね。ということは屋台が…!」

「そうそう!屋台で食いまくる日!」


「行く!!」






楽しみだなぁ

その日の夜は、ふとんの中で屋台で何を食べるか考えながら眠りについた。








そして次の日になり練習が終わると、丸井くんがめちゃくちゃ張り切って片付けをしていた。

「食い意地はってるやつはすごいのう」
仁王くんは、いつも通りのんびりしている。
すごい対照的

「小宮山先輩は浴衣着ないんすかー」

「着ないよ。私もみんなと一緒に直接行くし」

「ちょっと残念っす。孫にも衣装っていうじゃないっすか」

「『馬子』だ!馬鹿者!」

切原くんがどの漢字を思い浮かべているかまで分かるとは…さすが真田くんである



みんな着替えるの早そうだし、私も急がなきゃな。
更衣室でいつもより早く着替えを済ませ、みんながいる部室に向かった。


「おー!早かったな小宮山」

私が部室に着くと、みんなも丁度準備完了といったところだった。
よかった〜。


「よっしゃ!行くぜー!」
丸井くんが先頭をきって部室からとび出した


今日の丸井くんは何かすごい…


部室から出ると、外はすっかり夕暮れだ

空は青と赤と紫が混じった不思議な色をしている

歩くたび、もわっとした空気がまとわりつくし、遠くからジージーとセミの声もして
夏だなぁと実感した。


「あー!なんかいいね、この雰囲気!夏祭りって感じするね!」

「そうですね。」
柳生くんがにこっと笑って答えてくれた


「去年も夏祭り行ったの?」

「ええ。毎年部活の後にこのメンバーで行っていますね。」


「そうなんだ」
そのメンバーに入れてもらえたんだなって思うと嬉しくなった。



「小宮山ー!屋台見えてきたぞ!」

先頭の丸井くんに呼ばれ、背伸びして前を見ると、たくさんの明かりが見えた。


うわぁ!やったぁ!「じゃぁ適当に買って、いつもの高台に行こうか」
後ろから幸村くんの声がしたので、みんな振り返って頷いた

「高台って?」

「いつも花火を見ている場所があるんだ。人もいないし、なかなか穴場だよ。」


「屋台も楽しめて花火もゆっくり楽しめるんだ。最高だね!」

もうさっきから頬が緩みっぱなしだ。
普段幸村くんを見る時は、緊張とかちょっとした警戒心が働いちゃうけど、今日は浮かれてるから全く感じない。





「何買おうかなぁ!やっぱりまずはオムソバとかかなぁ!」

「だな!晩飯変わりに、しょっぱい系食おうぜ」

「からあげもポテトも食べたい」

「よし、じゃぁお前ポテト買えよ。俺からあげ買う」

丸井くんと素早く作戦会議を終え、お目当ての屋台に向かった


オムソバとポテトとたこせんとベビーカステラと…
あぁ、持てない!幸せ!


その後は、ヨーヨーとか射的とかお祭りらしい遊びをして
みんなで高台に向かった。



「わぁ!すごい…ほんとに人がいないね」

見晴らしは最高だ。


「だろ?花火もよく見えるから楽しみにしとけよ」

丸井くん、もうたこ焼き食べてる!ずるい!

私もオムソバ食べちゃおーっとわくわくしながら、輪ゴムを取ってフタを開けた。

左手にオムソバを持って、右手に割り箸を持ってるけど
これじゃぁ両手が塞がっててお箸が割れない。


「おーうまそうっすねぇ!」
「そばいただきぃ!」
「この玉子のところがうまそうじゃのう」

「ぎゃー!やめてやめて!あっそこ一番おいしそうなとこっ…あー!でかいお肉食べたああ!」

私の両手が塞がってるのをいいことに、3バカによって侵略される私のオムソバ…!

ひどい!

「はは!お前にはこれやるよ」
丸井くんによって目の前に差し出されたポテト2本を口で受け取った

おいしい…けど私はオムソバが食べたいんだよバカ!

3人はあいかわらず私の手をオムソバ置きにして食べ続けている
私テーブルじゃないんですけど

なに?今日私を呼んだのはテーブルにするためか?え?








「ヨウコ」





「はいっ…」

「こっちにおいで」


その声は決して大きいものではなかった。
それなのに、あの3人を大人しくさせるのには充分で

たぶん3人も私と同様、驚いて固まったのだろう。






名前を呼ばれた…



驚いているのに、魔法のように足が引き寄せられて
私は声の主、幸村くんの側についた


「これ食べなよ」

差し出されたのは、まだ誰も手をつけていない新品のオムソバ


なんで?
最近なんか幸村くんが前にも増してよくわからない。

嫌がらせしたりからかったりされるけど、最後にはなぜか優しい。


しかも名前で呼ばれたことで、更に頭は大混乱だ



「食べないの?」


「たっ…たべます」

平静を保とうと、オムソバに箸をつける




……味がぜんぜんわからなかった