幸村くんの向かいに座ってチョコを食べていると、なんだか外が騒がしくなってきた。

しかもその声は部室に近付いてきてる?と思うと同時に、ガチャッと騒々しくドアが開いた。

「あれー?小宮山先輩じゃないっすか!」

「お?まだ帰ってなかったのかー!ちょうどいいや、トランプやろうぜー」

切原くんと丸井くんが、お菓子が入ったコンビニの袋を持って、ばたばたと入ってきた。

その後ろから、やや遅れて柳くんとジャッカルくんもいる


「トランプ?」

「そ、赤也が今から柳に英語の特訓受けるらしいからさ。冷やかし」
丸井くんは楽しそうに袋からお菓子を出しながら言った。
4人で食べ物を買いに行っていたらしい。


そっか。
明日学校休みだし、少しくらい帰るの遅くなっても平気だもんね。


「ほら、お菓子も食えよ。どーせ腹へってんだろ」

「よくお分かりで…」
丸井くん、生き生きしてるなぁ…




「ジャッカル早くトランプ配って!あ、幸村くんもやるだろぃ?」

「ああ。部誌を書き終わったらやるよ。先にやっといてくれ」

「おっけー。あ、柳は?」

「そうだな。赤也は1問解くのに時間がかかりそうだからな。その間に参加しよう。」

「よし、じゃぁジャッカル!まずは4人な」

「へいへい」
ジャッカルくんは呆れたようにトランプをシャカシャカくみだした

「…ジャッカルくん、ありがとね」

「あぁ」

う〜ん、哀愁がただよってるなぁ!


先輩達ずるいっすー!と駄々をこねる切原くんをよそに、大富豪をすることになった。










「あがりだ」

「えー!なんで?!またぁ?!」

「柳!いかさましてんじゃねーだろうな」


柳くん強すぎる
もう3回も一番にあがってる


「なんでそんな強いの?!」

「出されたカードからお前達の手札を推測して最良のカードを出せば自然と勝てる。」


大富豪ってそんなに頭使うゲームだったんだ…
私、一か八かのカケでやってたよ…そりゃ勝てないわけだ


「くっそ〜!もう1回やるぞ!ジャッカル!」

トランプを配るのはジャッカルくんで定着しているようだ。
次は代わろう…うん
そう思いながら、飴を口に含んだ。


「幸村もそろそろ参加できそうか?」

「そうだね。参加するよ。その前に聞きたいんだけど」

「何だ?」

「今から足りないものを発注するんだけど、何か必要なものあるかい?」

わ…
なんて良いタイミング…


「必要なものかー。食いもんはいつでもほしいんだけどな!」

「今は特にないな。」

どうしよう…言ってもいいかな

「ゲームならいつでもほしいっすけどね〜」

「赤也、ここのスペルが違う。」
「う……はい」



よし!言う!

「あのさ!」


「うん、なに?」
幸村くんがまっすぐ私を見たので少し俯きながら言葉を続けた

「洗濯してて思ったんだけど…タオルがね、傷んで薄くなっちゃってるのが結構あるなーって」

「…そうか。そこまで気付かなかったな。傷んでるものが何枚くらいか数えておいてくれるかな」

意外とさらっと聞いてもらえた…!


「あ、もう数えといた」


「ほんとに?ありがとう。じゃぁ必要な数教えてくれる?」

そう言って幸村くんは、ふわっと笑った。


うわ…

こんな笑顔初めて見た…


なんか、初めて役にたてた気がする。
些細なことだけど、すごく嬉しい


「へ〜、小宮山やるじゃんか。ご褒美にこれもやるよ」

そう言って丸井くんはシュークリームをくれた。

「柳先輩!俺も問題全部解けたっすよ!」

「よし。いいだろう。」

「じゃ、次は幸村と赤也もまぜて6人だな。トランプ配るぞ」

「はーい!」



なんだか心がふかふかして心地よくて、すごく楽しい。

丸井くんとジャッカルくんとラーメンを食べに行った日から、心の中にあった少し寂しいモヤモヤした感じの正体が、ちょっと分かった。


私、この人達と友達になりたかったんだ


テニスに一生懸命打ち込んで、キラキラしてて、楽しそうで…
絆でつながってるみんなの仲間に入りたかったんだ。

最初はみんなのこと知ろうともしないで興味ないとか言ってたくせに
この人たちの人柄にすっかり惹かれてる


「ほんと私ってバカだなぁ…」

「そうだね。」

「馬鹿というより阿呆だな」

「なーに言ってんだよ今さら!」

「俺、先輩は勉強できない仲間だと思ってますから!」


「おいおい…お前ら」


勉強とかそーいう意味で言ったんじゃないんだけど…
そしてジャッカルくんは相変わらず良い人だし


バカという言葉に一斉に納得されたのがおかしくって、みんなで声を出して笑った


さっき食べた飴もすっかり溶けて、口の中には
ほんのり心地良い甘さが広がっていた