今日は割と湿気が少なくて過ごしやすい。
テニス部のみんなは常に動いているから、いつもと変わらないくらいの汗をかいてるけど

なんか洗濯物がよく乾きそうだな。

よし、タオルを洗ってしまおう。

そう思い立ってタオルがあふれそうなほど入っているカゴを持って、洗濯機の所まで向かった

少し古い洗濯機
1度で全部のタオルを入れたら洗濯機が溢れてしまうので、適当に半分に分け、バサッと入れて水を張る。


水って見てるだけで涼しい。夏の洗濯は割と好きだ。


洗濯機に注がれる水を、じっとみつめながら昨日のことを考えた。

枕元にチロルチョコとミネラルウォーターを置いてくれたのは誰なんだろう。
ちゃんとお礼言わなきゃな


なんとなく幸村くんかなぁと思うけど…
彼がチロルチョコを持っている姿が想像できない


水がだいぶ溜まってきた洗濯機に洗剤を入れて、ふたをした。

さて、洗濯中は何をしようかなと辺りを見回すと、さっき分けた洗濯前のタオルが目に入った。

よく見ると、けっこう薄くなっちゃってるのもあるなぁ


新しいタオルってあるのかな
破れそうなやつは雑巾とかにした方がいい気がする。
汗を拭くなら、ふかふかの方が気持ちいいだろうし


…幸村くんに言ってみようかな
でも、私が部活のことに口出ししていいんだろうか

みんな優しくしてくれるから忘れてたけど、私一応は下僕という肩書きなんだよね…笑えねー


とりあえず傷んでるタオルの数は数えておいたけど、これを幸村くんに報告するかどうか…緊張するな…

う〜ん





言おうかな、と思っても幸村くんは常に何かをしているから、なかなか話しかけにくい


タイミングを見計らいすぎて、部活も終わりの時間になってしまった




もやもやしながらも制服に着替え、更衣室を出たけど、なんとなくまっすぐ帰り辛い。
チョコのこともタオルのこともあるし

ちょっと部室の方を見てみた


まだ部室の電気ついてる…





思い切ってドアを開けると、机にむかって部誌を書いていた幸村くんと目が合った。

右手にはペン
左手には……


「き…昨日はどうもありがとうっ」

「え?…あぁ、いいよ。俺も同じ方向だったし」

「送ってくれたこともだけど、あの…チョコと水」


なんとなく幸村くんだろうって私のカンが働いてた。仁王くん曰わく野生児のカンてやつ。


けど、私なんかのためにそんなことしてくれるわけないと思ってた

仲が良い他の部員ならまだしも私なんかにって

でも今、幸村くんの左手にあるチロルチョコを見て、幸村くんだったんだと思った

それだけじゃ確実な証拠にはならないかもしれないけど、考えるより先に口が動いていた


「あぁ…それか」
幸村くんは一瞬驚いたような顔をしたけど、すぐにいつものような余裕のある笑顔になった


「俺が食べようと思って置いといたのに、保健室行ったらキミが食べちゃってて驚いたよ」

「えぇっ?!」
そういえばそうだった
誰のか確認しないで食べちゃったんだ…!
幸村くんが自分のために買って置いといたやつだったの?!

それなのにお礼とか言っちゃって、私かなり痛いヤツじゃ…!




「うそだよ」
本気にした?と幸村くんは心底楽しそうに笑った


「キミ、疲れてるみたいだったからね購買で買ったんだ。懐かしくて自分の分も買ってみたんだけど…久しぶりに食べるとやっぱりおいしいね」

そう言って幸村くんは左手に持っていたチョコを口に含んだ


だからもっとわかりやすい冗談を言え!



ぐぅ〜


「…今地響きが聞こえなかった?」

「私の腹の音ですが何か」
地響きって!失礼な!


「まだ何個かあるから座って食べていけば?」


もやもやが1つ解決したのが嬉しくて、お言葉に甘えて幸村くんの前のイスに座ってチョコを手に取った


昨日と同じ、きなこもち
私がいちばん好きな味

おいしい


「フ…」

「なに?」
また笑われた?

「べつに」

「ふぅん…」
やっぱ笑ってるじゃん



同じチョコなのに、なんだか昨日食べたものよりも甘く感じた。