雑用生活3日目



今日も暑い。だるい。


のろのろとテニスコートに入ると、丸井くんと切原くんがニヤニヤと暑苦しい顔でこっちを見ている。


なんだろう…
まぁいいや。なんかめんどくさい雰囲気がするから気づかないふりしよう。そうしよう。

と思ったのに2人はこっちに近づいてきた








「よぉ小宮山!ナマステ!」
「小宮山先輩、ナマステっす!」


な………


「なに?!なんで知ってんの?!」

私が焦った顔をすると、2人はゲラゲラ笑い出した。


…仁王くんの仕業だな。あのやろお

「笑いすぎじゃない?!」


「だって…!お前っ!わはははは!」


何を言っても更に笑われそうだな
ほっといて行こう…








「おーおー、楽しそうやのぉ」

仁王くん!
このやろう私に恥をかかせやがって…!



「そんな怖い顔しなさんな。ほれ」


「なに?」
仁王くんが差し出したのはガムのようだ。
え、もらっていいのかな?



「くくっ…食いもん出すと目が活き活きするんな。昨日のお詫びじゃ」


また笑われた気がするけども
今は目の前のガムに夢中だ。
あんまり見たことないメーカーのガムだなぁ
どんな味がするんだろう

自然と口元が緩む
わくわくしながら手を伸ばした







「ありがぎぃあああ!」

「わははははははははは!」



痛い!!指が痛い!
これは…パッチンガム?!

お礼を言って取ろうとした瞬間、指をガムに挟まれた


丸井くんと切原くんも見てたらしく、引き続きぎゃぁぎゃぁ笑っているし
仁王くんも下を向いて肩を震わせている



はめられた……!


「お前おっさんみたいな声出たぞ!」
「小宮山先輩、中におっさん入ってんすか?」




指はじんじんするし、心臓は驚いてバクバクしてるし
何がなんだか…







「ほぅ…『小宮山の中には中年男性が入っている』と。なかなか良いデータが取れたな。」

柳くんいつから見てたんだろう
でもそのデータ間違ってるよ…



「お前ら…いじりすぎだぞ」

あ、この人はたしか
ハーフのジャッカルくんだ。


初めて私を庇ってくれる人が現れた…


「あんたら3人!覚えてなさいよー!」


「おー怖い怖い」とニヤニヤ笑いながら仁王丸井切原は逃げて行った






はぁ……



「なんか…悪いな。あいつら悪い奴らじゃないんだけど」
ジャッカルくんが申し訳なさそうに言った。

「や、ジャッカルくんが謝ってくれることないし。全てはあのピョロ毛とガムともじゃもじゃが悪いんだし」


3人の代わりに謝ってくれるなんて、ジャッカルくんは何て良い人なんだ!なんて常識人なんだ!



「…ジャッカルくんも苦労が絶えなさそうだね」

「…そうなんだよ。わかってくれるか」


ジャッカルくんとちょっと心が通じ合えた気がした






「それにしてもお前は不思議な奴だな。」

柳くんが分厚いノートを見ながら口を開いた

不思議って?何が?


「コミュニケーション能力が低そうに見えるが、3日目にしてあのクセの強いやつらと中々打ち解けているじゃないか。」

「…軽くイジメだけどね」


「不器用そうに見えて与えられた仕事はそれなりにこなしているし。」

「……」

「他の女子と違って特定の部員を優遇することもないしな。あぁ、中身が中年男性だからか」

中年男性…おっさんてことか


「そこそこ気が強く、図太そうだからこちらも遠慮なく話ができる。」




「…誉めてる?貶してる?」
コミュ力低そうとか不器用そうとか中年男性とか図太いとか!


「安心しろ。誉めている。」

ふっと少し柳くんの表情が優しくなった気がした。


誉められたのか…?なんか納得いかないけど
初めての感覚に少しくすぐったくなった。
一生懸命何かに打ち込んだことないから、誉められ慣れてないんだ。
だからちょっと嬉しかったりする。


「お前には皆、ほんの少し期待しているぞ。」


「…ほんの少しですか」

悪態をつきながらも、やっぱりちょっと嬉しいと思ってしまった。